研究報告スライドの作り方(4):背景スライド

メロスは激怒した。

で始まる小説と言えば、太宰治様の「走れメロス」です。正義感を履き違えて、うっかり友人を生贄に捧げてしまった狂気の男の物語なのですが、記憶が補正されて「メロスは約束を守るからいいやつ」と思われがちです。実際は、友人の処刑タイムが近づいてるのに「ちょっと昼寝しとくか」と平気で居眠る人です。

といったストーリーも気になりますが、今回、注目したいのは「メロスは激怒した」という超絶引きの強い書き出しです。電車の中でブチ切れているオジサンがいたら思わず見てしまうように、書き出しで激怒されたら「どした?どした?」と続きが気になってしまいます。

書き出しって大事ですね。

今回のテーマは、研究発表の書き出し部分にあたる「背景スライド」です。

これで本スライド講座も第四回目になります。私が無駄話ばかりするので、金箔もびっくりするくらい内容が薄くなってしまい、四回目になのにまだ「背景」です。過去の記事を読んでない方は、以下からどうぞ。

第一回はこちら(スライド作成手順-前編)
第二回はこちら(スライド作成手順-後編)
第三回はこちら(メッセージラインの書き方)

Q. 背景に何を書けばいいの?

研究発表の書き出しにあたる「背景スライド」は、何を書くのがベストでしょうか。走れメロスのように、とりあえず激怒して、聞き手をびっくりさせてみるとよいのでしょうか。

私はこう考えます。

A. 「虎の威あるある」を書きましょう。

私が研究報告の背景スライドを作るとこんな感じになります。なぜこういう形式の背景にしているのか。この記事で理由をお伝えしたいと思います。

背景スライドはつかみ

漫才や小説では「つかみが大事」と言います。つかみとは、話の最初に相手の気持ちグッと鷲掴みにするネタを入れることです。研究発表においても、最初に聞き手を「おっ」と思わせることができれば、その後の話がスムーズに入っていきます

しかし「つかみ」にはセンスが求められます

初めて行った美容室で、こんなことを言われました。「お客さん。よかったですね。今日で世界が変わりますよ」と。私はこう思いました。「変なこと言う人だな…。大丈夫かな…。」このように、つかみで意表を突こうとすると、引かれてスベるリスクがあります。(ちなみに、私はその日で世界が変わりました。美容師さんの腕は本物でした)

つかみが大事、と分かっていても、臍の緒と一緒に笑いセンスも切り取られてしまった私のような小物が、調子にのって「つかみ」に行こうとすると100%スベります

たとえば「第一回の記事」で紹介した英語学習法のスライドでは、以下のような「つかみ」を考えてましたが、スベる気配を感じて不採用にしました。

・「なんで、私がペラペラに!? 脅威の英単語暗記法を紹介!」
・「この世には二種類の英単語がある。meか、me以外か。」
・「Melos got enraged. ~激怒から始まる三日間爆走生活~」

寒いですね。笑いを愛し、笑いに愛されなかった私が、どうやってスベるリスクを回避しているかというと、背景を設定紹介で済ませています。

笑いを取れぬなら安心感を与えよ

「つかみ」で笑いをとるのがベストですが、それが難しいとき、設定紹介に徹して、聞き手に安心感を与えるという方法があります。

設定紹介とは、漫才でいうところの「あのね、僕、コンビニ店員やってみたいんです」に対応するものです。

設定紹介があると「ああ、この人はコンビニ店員をやりたいんだな」と聞き手が準備できます。そうすると、その後の「でも不安だから練習させてもらってもいい?僕が店員で、君が客ね」「よしやってみよう」「ウィーン」「いらっしゃいませー」という流れが頭にスムーズに入るようになります

もし設定紹介が無ければどうなるかというと、唐突に「ウィーン」と始まります。多くの聞き手は「コンビニに入ったのかな?」と理解してくれますが、聞き手がコーヒー中毒者なら「スタバに入ったのかな?」と勘違いする可能性があります。少年合唱団に入ったと思う可能性まであります。

また、コンビニだろうなと90%確信していても、100%の確信がないまま話を聞くのはストレスだったりします。よって、最初に設定紹介をして、誰もが疑いようのないところから話し始めることが大切です。

あるあるで設定紹介

設定紹介をするだけなら簡単です。英単語暗記の例では「英単語の暗記法の話をします」と言ってしまえば、設定紹介をする背景スライドのできあがりです。

それも悪くないのですが、もっと優秀な子がいるので、ぜひ使ってあげてほしいです。それは「あるある」です。ここで言う「あるある」とは、誰もが一度は経験したことや、疑う余地のないくらい当たり前のことを指します。

たとえば「英語を勉強するときって、英単語の暗記をやりますよね〜。大事ですよね〜」が、あるあるです。

これを聞いて「いや!俺は英単語の暗記なんかやらん!やったこともない!」と口の端を泡立てて反論してくる人がいるとすれば、よほど空気の読めない方か、蟹の可能性があります。大半の人は「まあ、そうだよね」「当たり前だよね」と頷くと思います

設定紹介に「あるある」を混ぜると良いことがあります。それは、相手に「無意識のイエス」を言わせられる、ということです。

これをイエスセット話法といいます。

人間、一度イエスと言うと、次の話題でもイエスと言いやすくなるそうです。この法則を知っている悪い営業マンにかかれば、私のような単細胞はイチコロです。

営「最近、渡邊雄太がNBAで活躍してますね」
私「そうですね」
営「同じ日本人として嬉しいですね」
私「そうっすねー」
営「応援したくなっちゃいますよね」
私「そっすねー!」
営「ではコチラの契約書にサインを」
私「はいよ!」

同じように、背景スライドの時点で、聞き手に「まあ、そうだよな」と無意識のイエスを言ってもらえると、続く目標スライドや課題スライドでも「そうだよな」と思ってもらいやすくなります。パチンコで言えば確変に入ります。

あるあるでビッグマウスを防ぐ

「イエスセット話法が通じない相手には意味ないのでは?」と思われるかもしれませんが、あるあるにはもう一つ良いことがあります。

ビッグマウスを防げるのです。

背景スライドは、ついついデカいことを言いがちです。「俺は東京に行ってビッグになるんや!」が許されるのは二十歳くらいまでではないでしょうか。もしいい年になっても「この研究は世界を革新するで!」と根拠も具体性もなくビッグマウスを叩いてしまうと、そう簡単ではないことを知っているオジさんたちがシラけて、耳に蓋をしてしまいます。

そうならないために「あるある」が役立ちます。あるあるを言いたい、研究背景のあるあるを言いたい、と脳内をレイザーラモンにしておけば、身近な具体例を探そうとするので、自然にデカイことを言わずにすむのです。

虎の威を借る

あるあるの効果を高める方法を紹介します。権威の力を借りるといいです。私くらい気の弱い人間になると、ジャイアンの陰がチラつくだけで、腰巾着のスネ夫にすら頭を下げることができます。私ほどでないにしろ、みなさま多かれ少なかれ、長いものに巻かれる習性を持っています。

つまり、権威の力を借りると「そうだよね」というイエスを得られやすくなります

権威の力を借りるには、具体的にはこんな方法があります。

  • 政府がHPで公開する統計データを引用する
  • 政府の政策文書を引用する
  • 国際組織が公表するロードマップを引用する
  • 偉い人の言葉を引用する

引用した図の下に「(参考)文部科学省 令和4年度 我が国の英語教育における学習法の調査」などの強めの文献情報をこれ見よがしに入れておくと、効果的に威を借ることができます。

誰にどんな利益があるかを示す

研究発表の場合「その研究は確かにすごいのかもしれんが、わしらの役に立つんか?」と必ず聞かれます。ちゃんと社会貢献する研究ですのでお聞きくださいませ!、と背景スライドで伝えられると、聞き手のストレスを和らげることができます。

研究成果に「ツチノコを発見した!」くらいの衝撃があれば社会貢献を問われませんが、「おしりかじり虫を発見した」ぐらいになると社会貢献度が問われる気がします。「おしりかじり虫が見つかって何が嬉しいんや?」と思う人がいるかもしれません。

たとえば、背景スライドで「肉食性のダニ: オシリカジリムシに噛まれる被害が増えているため、生息域と個体数の把握が求められている」のようなメッセージを伝えると「そうだよね。噛まれたら大変だよね」と納得してもらいやすくなります。

誰にどんな利益があるかを伝えられるとよいです。

社会貢献度を数値で示すべきか?

社会貢献度を示せ!と言われると、難しいと感じるかも知れません。「地球全体の二酸化炭素の排出量を5%削減します」と言えればベストですが、そんな難しい計算を、スライドを作る度にやれるかと言われると、厳しいです。

あなたの指導者に「数値で示せ」と言われたら、頑張ってやるしかないですが、そうでなければ具体的な数値を言わなくてもよかったりします

最初の方にお伝えしましたが、背景スライドの目的は「相手に安心感を与える」です。「そうだよね」と一回頷いてもらって、以降のスライドでのイエスセット効果を狙うためのものです。よって、背景スライドで誰かを説得する必要はなく、それゆえ、そこまで具体的な数値にこだわらなくても良いと私は考えています。

まとめ

背景スライドの考え方をお伝えしました。背景スライドは「つかみ」が重要ですが、笑いの神に愛されなかった私のような方のために、「安心感を与える」という方向性に振り切ってスライドを作る方法を提案しました。安心感を与えるとは、つまり「そうだよな」と一回頷いてもらうことです。そのための背景スライドは、あるあるを使って設定紹介しつつ、権威の力を使って「そうだよな」を誘い、社会貢献度にも触れるというものでした。

次回は、目標スライドの書き方を解説します。
次回はこちら

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