研究報告スライドの作り方(5):目標スライド

みなさま、こんにちは。
勉強法ソムリエひろしです。

今回のテーマは「目標スライドの書き方」です。

研究報告スライド作成講座も第5回になりました。
過去記事を見ていない方は以下からどうぞ。

第1回はこちら(スライド作成手順 前編)
第2回はこちら(スライド作成手順 後編)
第3回はこちら(メッセージラインの書き方)
第4回はこちら(背景スライドの書き方)

Q. 目標スライドはどう書けばいいの?

A. SMARTの法則を使ってみましょう。

以前紹介したスライド作成例の目標スライドは、こんな感じでした。

なぜ、このようなスライドにしたのか、理由を説明したいと思います。

目標があるとストーリーが入ってきやすい

目標スライドをどう書くかを考える前に、そもそも目標スライドを入れる必要があるか、について考えてみたいと思います。

というのも、目標スライドを使わずに研究報告をする人もいるからです。背景スライドの次に、すぐに課題スライドが来るタイプです。この形式でも研究報告はできます。導入部分が短くなり、早く本題に入れるというメリットがあります。

それでも私は、目標スライドが必要だと思っています。なぜなら「目標」があると、ストーリーが伝わりやすくなるからです。

少年漫画の主人公は、多くの場合「叶えたい目標」を持っています。目標があることで主人公の行動原理が定まります。すると読者はストーリーに感情移入しやすくなり、一緒に冒険している気持ちになれます。

以下は有名な少年漫画が掲げている「目標」です。何の漫画か当ててみてくださいね。

・ドラゴンボールを7つ揃える
・海賊王に、おれはなる
・父親のような火影になる
・父親に会うためにハンターをめざす
・クリスマスボウルに出場する
・新世界の神になる
・神の一手を極める
・大人の体に戻る
・人生のフルコースを完成させる
・アニメ化したら結婚する

同じように、研究報告スライドでも「目標」を掲げることで、それを叶えるためのストーリーが生まれます。目標をめざして頑張るストーリーは、かつて少年漫画に夢中になった、私のようなオジサン研究者の心をくすぐります。

よって、わざわざ1ページ割いてでも、目標スライドを入れるべきだと思っています。

誤った目標の立て方

しかし、研究報告では、少年漫画のような「なんかすごそうな目標」を立てればよいというわけではありません。よくない目標の例をひとつ挙げたいと思います。

私の世代で「目標」と言えば「めざせポケモンマスター」が思い浮かびます。めざせポケモンマスターは、テレビアニメ「ポケットモンスター」のオープニング曲として、1997年に発表されました。

「憧れのポケモンマスターに絶対なってやる!」という決意が込められた神曲です。この曲を知らない方のために、歌詞の内容を少し紹介します。

故郷に別れを告げ、ひとり旅に出たサトシくん。ピカチュウの鍛えた技を武器に、仲間を増やしながら、街を渡り歩きます。うまくいく保証などない中「本気で生きているから大丈夫」というポジティブシンキングで乗り切ろうとします。憧れのポケモンマスターになりたい。ならなければ。絶対になってやる。という三段活用で自らを鼓舞します。

サトシくんの「ポケモンマスターになりたいんだ」という純粋な気持ちが伝わってきますね。夢があっていいな、と暖かい気持ちになります。

しかし、研究発表の目線でみると、問題点に気付きました

「目標設定が甘すぎないか?」という点です。

まず、彼の目標とする「ポケモンマスター」が具体的に何なのか不明です1。ポケモンリーグのチャンピオンになることなのか。図鑑を完成させることなのか。オーキド博士のような専門家になることなのか。作中では明かされないまま旅が続きます。

達成期限も曖昧です。

サトシくんは10歳だそうですが、何歳までにポケモンマスターになるつもりなのか、誰も分からないまま、物語が進みます。作中には数々の大人が登場します。彼らが誰ひとりとしてポケモンマスターになっていないことから、ポケモンマスターは数年やそこらでなれるものではないと推測できます。

たとえばグレン島のカツラは50歳です。50歳まで頑張って、結局ポケモンマスターになれなかったとしたら、サトシくんは後悔しないでしょうか。

計画にも問題があります

サトシくんは、ポケモンマスターという曖昧な目標を立てているため、それを達成するための計画にも具体性がありません。計画といえば「なかまを増やす」「本気で生きる」くらいのものです。岩タイプのニビジムに、電気タイプのピカチュウを主軸にして乗り込もうとするくらい、無鉄砲が過ぎます。

しかし、サトシくんはまだ10歳です。目標や計画に穴があるのは当然です。問題は、周囲の大人です。なぜ、もっと親身になって、彼の目標設定を手伝ってあげなかったのでしょうか。

…などとアニメにツッコむのは野暮というものですね。目標設定が甘い例を出そうとしてサトシくんを腐してしまいました。ごめんなさい。キラキラしたポケモンの世界に目標設定などというリアルを持ち込むべきではありませんでした。

さて、研究報告スライドに戻ります。

研究では、しっかりとした「目標設定」が求められます。なぜなら、研究にはお金が掛かるからです。研究をするためには、実験装置などの設備費、消耗品費、人件費、旅費、光熱費などが必要です。大学であれば、研究費が税金から拠出されるため、納税者に対して「いただいたお金を無駄にせず、有用な研究成果を出します」という説明責任が発生します。

有用な研究が行われたかを測る指標の一つが「目標の達成度」です。研究を始める前に「このような目標を達成します」とお約束して予算を貰い、期限までに「目標の◯%を達成しました。未達理由は◯です。」と報告する義務があります。

その縮図が、研究報告スライドです。

研究報告スライドのストーリーを要約すると「こういう目標を立てました」「達成しました」または「一部達成できませんでしたが、◯◯に課題があることが分かりました」となります。

その「目標」が明確だと、スライド全体が分かりやすくなります

ポケモンの例は、研究報告の観点では、誤った目標設定の見本でした。「ポケモンマスターを目指します」という目標には、具体性が不足しており、何をもって達成となるかが曖昧で、期限もなく、現実的な目標かどうかも不明です。

このような誤った目標設定を行わないために、古くから「SMARTの法則」が使われています。

SMARTの法則

SMARTの法則とは、よい目標の作るための五要素を分かりやすく示したものです。よい目標は以下の要素を含みます。

1. Specific (具体的である)
2. Measurable (測定可能である)
3. Assignable (誰が実施するか決まっている)
4. Realistic (現実的である)
5. Time-bounded (期限が決まっている)

SMARTの法則は、1981年にManagement Review誌に掲載されたジョージ・T・ドラン氏の論文2がルーツとされています。

恥ずかしながら私、このSMARTの法則を、社会人になってしばらく経つまで、知りませんでした。ググって見つけた記事で「ビジネスマンならSMARTの法則くらい知っていて当然」と煽られてしまい、シュンと落ち込んだ思い出があります。今日初めて知ったよ、って人は安心してください。私が仲間です(私のような変人が仲間なのは別の意味で安心できませんね…)

さて、このSMARTの法則、「SはSpecificのことで、具体的じゃけえの」と用語を説明をされただけでは、分かりにくかったりします

そこで例題として、ポケモンマスターの場合について、SMARTの法則に沿った目標を立ててみたいと思います。

まず素の状態だとこうなります。

目標: ポケモンマスターに絶対なってやる
1. S. 具体的か?→No
2. M. 測定可能か?→No
3. A. 誰が実施するか?→サトシくん
4. R. 現実的か?→不明
5. T. 期限はあるか?→No

五要素のうち、一つしか満たしていません。想像力を働かせて、五要素すべてを満たすような目標に変えてみます。こうなりました。

目標: 三年後までに、伝説系を除く、初代ポケモン146匹を図鑑に登録する
1. S. 具体的か?→Yes(図鑑に登録)
2. M. 測定可能か?→Yes(146匹)
3. A. 誰が実施するか?→サトシくん
4. R. 現実的か?→おそらくYes
5. T. 期限はあるか?→Yes(三年後)

一気に夢の無い目標になってしまいました。やはりアニメの「めざせポケモンマスター」は、夢があっていいですね。しかし、研究発表の観点では、SMARTの法則を満たしたことで、レベルが上がったと思います。

特に大事なのが「Measurable 測定可能か」のところです。研究報告スライドの最後で、目標を達成したかどうかを評価します。このとき、測定可能な目標を設定しておくと、達成度を伝えやすくなります

目標を立てたとて、必ずしもうまくいくとは限りません。図鑑に登録できたのが146匹に届かないこともあると思います。

そのとき単に「ダメでしたー」と言うのではなく「145匹まで登録しましたが、あと1匹足りませんでしたー」と言えれば「途中まで頑張ったんだな」と思ってもらえます。

「拙者、ピカチュウフェチなる自らの性癖に気づいてしまい、どうしてもライチュウに進化させられなかったでござる」と理由も添えるとベターです。「それなら仕方ないな」と納得してもらえることでしょう。

ゴールの絵を書く

本講座では「頑張らない」スライド作りをお伝えしています。SMARTの法則を満たせれば、とりあえずの目標スライド作りは完了です。私ならば、ここで頑張るのをやめます。

しかし、指導者によっては「もう少し頑張れ」と言われるかもしれません。そんな方のために、もう少し頑張るためのテクニックを紹介します。

ひとつ目のテクニックは「ゴールの視覚化」です。

「三年後までに、伝説系を除く、初代ポケモン146匹を図鑑に登録する」と文章だけで伝えるのではなく、絵を入れると、ストーリーに感情移入しやすくなります

視覚化のやり方は、イラストを書くグラフで示すを入れるといったものがあります。

大学や会社でいらすとやを使うとNGな場合もあるので、ちゃんと確認しておこう

「イラストを書く」というとハードルがグンと上がりますが、関連したイラストを「いらすとや」様などから引っ張ってくるだけでも十分に効果があります。上の例では「図鑑に登録するんだな」という部分がひと目で分かります。

「グラフで示す」というのも厳密なグラフである必要はありません。「最終的にこんなグラフになるんだろうな」という聞き手の予想が視覚化されれば十分です。それだけでも、文章でみるのに比べて、聞くストレスがかなり減ります。

大海賊団の一味感を出す

ふたつ目のテクニックは「大海賊団の一味感を出す」です。

目標の規模に目を向けると、ポケモンマスターに絶対なってやる!くらい壮大なものばかりではなく、ニビシティのジムを攻略する、くらいしょぼい目標の場合もあります。そのとき、しょぼさをカバーするテクニックに「大海賊団の一味感を出す」というものがあります。

「俺の名はキャプテン・ウソップだ!」と言うよりも「俺は、あの麦わら海賊団の一味、キャプテン・ウソップだ!」と言う方が迫力がでます。

要は箔をつけましょう、ということです。大海賊団の名前を借りて威張っている狐のようですが、研究報告において、名を借りることは、別に悪いことではありません。むしろ良いことです。

普通、研究というものは、何か偉大なる目標があり、それを叶えるために、目標を小さく分割してコツコツ達成していきます。この小さな目標は、中間目標とも呼ばれます。

研究発表において「偉大なる目標を一発で達成したったwww」のような発表は、まず見ません。たいていは、偉大なる目標の一部分である、中間目標を一つ達成しました、という報告になります。

偉大なる目標の中間目標である、という風に本研究の目標を示すと、研究の位置付けが伝わり、研究の全体像が見やすくなります

グランドラインを見せる

では、どうやって一味感を出すかというと、便利なのがフローチャートです。

フローチャートを使って、偉大なる目標に向かう道筋を示すのがお勧めです。本研究が何番目の中間目標なのかがひと目で分かるようになります。私はこのフローチャートが、偉大なる目標に向かう航路に見えることから、グランドラインと呼んでいます。

スライドの左半分にグランドラインを示し、右半分に本研究の目標グラフを書けば、それらしい目標スライドになってくれます。

偉大なる航路(グランドライン)という二つ名を付けていることを人前で言うと、こっぱずかしい思いをするので、やめておこう

まとめ

今回は、目標スライドの書き方を解説しました。目標を示すと、ストーリーが生まれ、聞き手が感情移入しやすくなります。具体的で、測定可能な目標を設定したいときに役立つ手法として、SMARTの法則を紹介しました。さらに頑張りたい方に向けて、目標を視覚化する方法と、グランドラインを添える方法をお伝えしました。

次回は「課題スライドの書き方」を解説します。
次回はこちら

  1. 26年後のアニメ終了時に明らかになりました。ポケモンマスターとは「世界中のポケモンと友達になること」だそうです。 ↩︎
  2. Doran, G. T. (1981). “There’s a S.M.A.R.T. way to write management’s goals and objectives”. Management Review 70 (11): 35–36. ↩︎

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