研究報告スライドの作り方(7):原因スライド

今回のテーマは「原因スライドの書き方」です。

この記事は、研究報告スライド作成講座の第7回目です。過去の記事をご覧になりたい猛者は、以下のリンクからご確認ください。

・第1回(スライド作成手順 前編)
・第2回(スライド作成手順 後編)
・第3回(メッセージラインの書き方)
・第4回(背景スライドの書き方)
・第5回(目標スライドの書き方)
・第6回(課題スライドの書き方)

Q. 原因スライドの書き方を教えてください。

A. 噛ませ犬のブリーダーになりましょう。

第一回でお見せしたスライド作成例では、以下のような原因スライドを紹介しました。

私がこの原因スライドに込めた思いの丈をお伝えしたいと思います。

原因スライドの目的

原因スライドとは、課題スライドと解決手段スライドの間に置かれるスライドです。従来法では課題を解決できないので、その原因は何かを説明するために使われます。原因をイメージできると、聞き手は次に説明される解決手段を受け入れやすくなります

つまり、課題→原因→解決手段、という論理で話をすると、説得力が出やすくなります。

という説明が普通ですが、実はそれは仮の姿で、原因スライドには別の目的があります。

原因スライドは噛ませ犬

そもそも、原因スライドも目標スライドと同じように「別に無くても問題ないのでは?」と思われがちなスライドです。

「無くても困らない界」では、カレーライスに添えられたラッキョウ漬け、ハンバーグに盛り付けられた人参のグラッセ、の次に原因スライドがランクインするくらいの人気を誇ります。

つまり、原因をスキップして、課題→解決手段という流れにしても、説明できてしまうのです。

原因という過程をスキップして、いきなり課題を解決しようとする未来人として名高いのが、ドラえもんです。

「ジャイアンにいじめられた」という課題を提示したのび太に対し、ドラえもんは、原因の解明をすっ飛ばして「空気ピストルで打ち返せ」という解決手段を与えます

おそらくドラえもんのAIが「いじめの原因はのび太の攻撃力不足にある」という判断を下したものと思われます。核爆弾の抑止力は核爆弾くらいぶっそうな考え方です。ドラえもんにおいて、このような原因の考察は読者には伝えられませんが、しっかりストーリーは頭に入ってきます。

そうなると、原因スライドは要らない子なのではないかと思えてきます。

たしかに、解決手段の説得力を増すためだけであれば原因スライドはなくてもよいかもしれません。それでも、私は原因スライドを入れるべきだと考えます。その理由は、原因スライドを入れると、噛ませ犬が産まれ、研究報告の後半に盛り上がりを作れるからです。

面白い研究報告には、必ず「意外性」があります。「こうなると思っていたけれど、予想もしていなかったことが起こった」という報告は聞いていてワクワクします。

その意外性の元となるのが「噛ませ犬」です。

噛ませ犬界のプリンス服部平次

噛ませ犬はストーリーを盛り上がる上で欠かせない存在です。中でも、理想的な噛ませ犬といえば、アニメ「名探偵コナン」に登場する服部平次です。

服部平次は、主人公である工藤新一(江戸川コナン)と双璧をなす高校生探偵です。「西の服部、東の工藤」と呼ばれるほどの推理力を誇りますが、その推理力の高さを「振り」にすることで、優秀な噛ませ犬として働きます。

たとえば、こんな感じです。

1.事件が起こる
2.服部平次が登場する
3.服部が推理を披露する
4.あいつが犯人かと納得する
5.それは違うぜ…と工藤が登場する
6.「なんやて!工藤」と服部が驚く
7.工藤が真の推理を披露する

私の記憶を頼りに書いたので、もしかしたら間違いがあるかもしれませんが、おおよそ上のように「なんやて!」と叫ばされているのが服部平次だと思っていただければ幸いです。

服部平次の「なんやて!」は、意外性を演出する上で、非常に強力なツールです。

服部平次という推理力の高いキャラクターを登場させることで、「まあ、そうだろうな」と納得できる推理(原因)を、読者の頭の中にイメージさせられます。しっかりとしたイメージが作られるので、真の推理が現れたとき、読者は意外性を感じます。「なんやて!工藤」は、いい意味で予想を裏切られた読者の声を代弁しているのです。

このように「確からしいけれど、実は間違っている説」を交えて話すと、ストーリー展開に深みが増します。これを「噛ませ犬」と私は呼んでいます。

研究報告での噛ませ犬例

原因スライドを噛ませ犬にすると、研究報告の後半で聞き手が「なんやて!」と服部平次になります。ちょっと分かりにくいと思うので、ダイエットをテーマに具体例を示します。

・背景「スリムで引き締まった体はカッコいい」
(聞き手の気持ち: せやな)

・目標「1ヶ月で3キロ痩せる」
(聞き手の気持ち:すごいやんけ)

・課題「夕食後にポテチを1袋いっちゃってる」
(聞き手の気持ち:それはあかんで工藤)

・原因「ポテチがうますぎる」
(聞き手の気持ち : それや!それやで工藤)

・解決手段「ポテチを不味く調理して食す」
(聞き手の気持ち:食べる量が減るかもしれへんな)

・実験「いつも通り/まずく調理で生活し1ヶ月後の体重を比較」
(聞き手の気持ち:何キロ減るか楽しみやで)

・結果1「まずく調理したグループの方が体重が減った」
(聞き手の気持ち:それみろ!もろたで工藤)

・結果2「しかし体重減少はわずか0.5キロ。目標に届かず」
(平次の気持ち:なんやて!)

・考察「ポテチの消費は減ったが、食事が揚げ物中心に変化した」
(平次の気持ち:あかん、あかんで工藤)

・まとめ「食事全体で見て、油と塩分を減らす工夫が必要」
(平次の気持ち:わいの負けやで工藤)

このように、あらかじめ考えていた原因とは別の要因でうまく行かなかったり、あるいは思っていたよりもうまく行ったりするストーリー展開にすることで、最後まで聞き手の興味を引き続けやすくなります。

噛ませ犬を生む3つのポイント

原因スライドを噛ませ犬にするためには「確からしいけれど間違っている説」を書くことが大切です。それだけ言われても難しいと思いますので、書き方のポイントを3つ紹介します

1.ありのままを書く
2.文献を載せる
3.ボトルネックに注目する

ポイント1.ありのままを書く

ひとつ目のポイントは「ありのままを書く」ことです。噛ませ犬を作りたいからと言って嘘を書く必要はありません。実験する前、自分は何が原因だと考えていたかを正確に思い出し、その通りに原因を書けば、まず間違いなく噛ませ犬になります。

というのも、自然を相手に実験をすれば、99%以上の確率で予想をしていなかった結果が混ざり、意外性が生まれるからです。何もかも予想通りに実験できたなら、ラッキーマン級の強運の持ち主か、よほどハードルの低い研究を選んでしまったかのどちらかと思われます。

予想していた原因をありのままに書くなんて、何を当たり前のことを、と思うかもしれませんが、スライドを書く段になると、この当たり前のことが難しくなります。見栄という名の千年眼(ミレニアムアイ)がうずいて「全てお見通しデース」と言いたくなるからです。

実験をすると「こんな簡単なことを見落としていたなんて、他人に知られたら、自分は馬鹿だと思われるのではないか」と不安になるくらい、しょぼい見落としに気づくことが多々あります。しかし心配ご無用です。それは「実験をした後だから、簡単なことに見える」だけであって、実験をする前に気づくのは、ちゃんと難しいことなのです。

よって、見落としがあったとしても、それを隠さず、自分が当初考えていた原因をありのまま言ってしまっても、馬鹿だとは思われません。むしろ、見落としなど無かった、すべてお見通しだった、というペガサス染みた研究報告を聞くと「なんか、うさんくさい」と感じます。

自己啓発本でも同じです。ビジネスに成功したワンマン社長が「全てお見通しだった」と自慢気に語る本は、うさんくさいです。いや、たまたまでしょと、つい斜に構えてしまいます。成功体験ばかりが続くので鼻につきます。一方、「ビジネスに成功したのは運がよかった」と語る社長の本の方が、真実味があって、納得できたりします。

というわけで、自分が思っていた原因を、ありのまま書くことをお勧めします。

ポイント2.文献をつける

ふたつ目のポイントは「文献を載せる」ことです。要は説得力をつけましょうということです。「こんな原因があると自分で考えました」と言われるよりも「似た事例を研究した先行文献ではAが原因だと指摘されているため、今回のケースでもAが原因だと考えました」と言われた方が説得力があります。

噛ませ犬の効果を高めるためには、説得力が欠かせません。説得力があるほど、説が裏切られた時に意外性が生まれます。これは毛利小五郎と服部平次を比べると明らかです。

名探偵コナンでは、工藤(コナン)が初っ端から「犯人はお前だ!」と指摘することはなく、いったん誰かを噛ませ犬にして、間違った推理をさせます。身近にいる大人ということで、可哀想な噛ませ犬役を買わされているのが毛利小五郎です。

毛利小五郎は、服部平次と違って推理力が低いキャラです。小五郎が犯人を見定め始めると「逆に、この人は犯人じゃないんだな」と読者が分かってしまうくらい、ポンコツな推理をします。小五郎の推理が外れたところで、意外性は生まれません

一方、服部平次は非常に推理力が高いキャラです。工藤が登場せずに、平次だけで真犯人を見つけてしまうときもあります。平次が推理しだすと、ワンチャン合っているのでは?という期待を持てるので、裏切られたときに意外性が生まれます

よって、原因スライドには、説得力を持たせるといいと思います。

ポイント3.ボトルネックに注目する

三つ目のポイントは「ボトルネックに注目する」ことです。

課題を解決できない原因がひとつだけしかない、ということは稀で、たくさん原因があることの方が多いと思います。ポテチの例であれば、うますぎるのが原因ですが、カロリーが高いのも原因ですし、毎日食べても家計に大ダメージが入らない低価格さも原因です。

このように原因がたくさんあるとき「あれも原因、これも原因」と列挙してしまうと、聞き手のイメージが弱まります。原因を噛ませ犬として利用し「なんやて!」というワードを引き出したいので、研究報告のスライド終盤まで記憶できるような、シンプルで強いイメージを聞き手に持ってもらう必要があります。

そこで注目したいのがボトルネックとなる原因です。ボトルネックな原因とは、課題を解決するうえでの一番の障害になっている原因のことです。ポテチの例では「うますぎるのが一番の障害」と考え、うますぎるという原因に絞って説明をしました。

原因がシンプルなほど、噛ませ犬は強力になります

たくさん原因があって迷うなぁ、と思った時は、どれがボトルネックだと自分が思うのかを整理し、原因を一つに絞って説明することをお勧めします。

まとめ

今回は、原因スライドの書き方を解説しました。原因スライドは、解決手段へと聞き手を導く潤滑油だと捉えられがちですが、噛ませ犬として後半を盛り上げるために活用するという見方を提案しました。噛ませ犬とは「確からしいけれど間違っている説」のことでした。原因スライドを噛ませ犬にするためのポイントとして、ありのまま書くこと、文献を載せること、ボトルネックに注目すること、の三つを紹介しました。

次回は「解決手段スライドの書き方」を解説します。
次回はこちら

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