運転中に「あぁっ!」と叫んだ母

コラムの第2回。

「死ぬとこだった」

そんな経験ないでしょうか。私はあります。

幼稚園のとき。ソファの背もたれによじ登って、はしゃいでいたら、急にソファがバッターンと倒れて、そのまま窓ガラスにダイブ。ガッシャーン。そこで記憶が一回とぎれ、ハッと気づいたら、下半身がガラスの山に埋まっていました。血まみれ。死ぬとこでした。

小学生のとき。歩道をあるいていたら、路駐しているバカ車がありました。「こんなとこに止めるなよ、邪魔だなぁ」と思って横に避けたら、ビュンッ! すぐ横を、すごいスピードで車が通過。その瞬間、痛っ!右腕のひじを見ると、皮膚がかすめ取られています。ジワーっと滲んでくる血。あと数センチずれてたら…。ゾッとしました。

高校生のとき。直径2センチはある、でっかい飴を舐めながら、バーッと道を歩いていたら、転んで、ゴクンッ。飴を丸飲みしました。苦しいっ! 死ぬかと思いました。

いや~、アホなことばっかりしてますね(笑)この歳まで生きてこられたのって、けっこうな奇跡なんだなと思います。いろいろな目にあいました。

中でも、特に忘れられないのは、母とのドライブです。

私が小学生だったころ、家でゴロゴロしてたら「おばあちゃんち行くよ~」と呼ばれ、母の運転する車に乗せられました。後部座席に座り、シートベルトを締めると、キュイキキキ、ブゥーン。車は走りだしました。

おばあちゃんちは車で10分くらいの距離にありました。パッと行けるのですが、途中、ちょっと狭い道を通らないといけなくて、しかも、けっこう車通りのある細道なので、いつも「危ないなぁ」と思っていました。

その日、思い返せば、なんだか母は眠そうにしていました。でも、特に気にすることなく、私は「はよ着かんかな~」なんて、ボンヤリ思いながら、車に揺られてました。

すると突然、ハンドルを握っている母が叫びました。

「あぁっ!!」

母の叫び声は、私が聞いてきたどんな母の声よりも大きく、迫力があり、車全体に響き渡りました。

「やばい!死ぬっ!」

私は死を強く感じ、ギュッと目を閉じました。そして…、ドンッ!という衝撃が、くることはなく、本当に、なにごともなかったかのように、ドライブは続きました。

えっ。さっきの叫びは何やったのん!?

母は何も言わず、運転しています。さっき叫んだよね? えっ。叫んだよね? 私だけしか聞こえなかった? なんで母はそんな平然としてるの? 怖くなりました。恐る恐る、

「どうしたの…?」

と聞いてみると、母は、照れ臭そうに「あくびしてたら、しゃっくり出ちゃった」と言いました。なんやねんそれ!私のビックリ返して(笑)マジで死ぬかと思ったんですから。

というか、あくびとしゃっくりが同時に出るってなに?

初めて聞いたんですけど。しかも、同時に出たら「あぁっ!!」って叫び声になるの?どういうこと(笑)不思議でたまりません。が、この謎は、何年も経ってから解けることになります。

大学生になった私は、声が小さいのがずっとコンプレックスだったこともあり、ボイストレーニングに通い始めました。

あるとき、ふと、母が「あぁっ!!」と叫んだ事件を思い出し、そういえば、トレーナーさんって声の専門家だし、なにか分かるかもと思い、聞いてみました。

すると、トレーナーさんは、プロの声量で大きく「アハハハ」と笑い、そんなの初めて聞いた、と言いました。そうなんだ、と思いました。しばらく笑っていたトレーナーさんですが、落ち着いたら、こんなことを言いました。

「でも、理にかなってるかも」

トレーナーさんによると、あくびは「喉がリラックスして声が出やすい状態」であり、しゃっくりは「腹式呼吸で強く息を送り出している状態」なのだそうです。

だから、この二つを組み合わせると、リラックスした喉で、強い息を吐くものですから、「あぁっ!!」と出た声が、和田アキ子さんのように、とんでもない声量になる、ということでした。

なるほど。納得です。

あくびとしゃっくりが揃うとアッコさんになる。そんな人体の不思議を知るレアな体験ができて、私はとってもラッキーだったのかもしれません。

でも、やっぱり、運転中に叫ばれると生きた心地がしないので、タイミングは考えてほしかったなぁと思います。ドライブ中に”アッコさん”になるなら、ハンドルは”おまかせ”できません。

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