美容師さんを相手に陰キャ会話術を練習してみよう

コラムの第9回。

今回のテーマは「陰キャの会話術」である。

「自分はどうやら陰キャらしい」と気がついたのは思春期に入る前、小学校高学年のことだった。私は極度の人見知りであった。話したことのない同級生の近くに居るだけで動悸が激しくなった。とにかく新しい人間関係を築くのが怖かった。大人になってマシにはなったが、完全には治らないことも分かってきた。

陰キャとは、陰気なキャラクターを意味する若者言葉である。性格が暗く、口下手で、オタク気質な人を指して「陰キャ」と言うらしい。英語ではナードやギークと呼ばれる。私が小さい頃には陰キャという言葉はなく「闇っ子」と呼ばれていた。闇属性を感じられるので、ちょっとかっこいいが、褒め言葉ではない。

私くらい陰性度が高い人間になると、ちょっと口下手なくらいの白帯陰キャとは一線を画しており、陰気・陰険・陰鬱・陰湿は軽くコンプリートしている。神様にもう一度キャラメイキングをお願いしているが、まだ実現していない。

陰キャの対義語は「陽キャ」である。社交的で、コミュニケーションが上手く、性格が明るい人を指す。物語の主人公は、基本的に陽キャが多い。陽キャとして有名なのは、覚醒前のベッキー、ドラ猫追跡時のフグ田サザエ、某ゴム人間海賊、コムドットなどである。

陽キャがこのブログを読む可能性は1ピコリットルも無いはずだが、億が一読む可能性を考え、陰キャの生態系を説明しておこう。

「陰キャは陽キャを恐れている」「陰キャと陽キャは混ぜるな危険である」と思われがちだが、陰キャの私としては、できれば陽キャの人とも関わりたいと思っている。いっちょ前に他人への興味はあるのだ。

だが、社交性が絶望的にないので、陽キャの中に放り込まれたら傷ついて帰ってくるのがオチである。もし傷つかずに済む魔法があるなら、陽キャの人たちと楽しくおしゃべりしてみたい。

傷つかないための魔法。そんなものがあるのかというと、ある。会話術である。鉄壁の会話術を身につければ、陽キャで満ちた壺に一緒に入れられたとしても生き残れるはずだ。そう考えて、いろんな会話術の本を読んだ結果、デール・カーネギー著「人を動かす」が最強の会話術だという結論に至った。

カーネギーは、会話の極意を「興味を持って人の話を聞くこと」だと説いている。すなわち傾聴である。自分の面白エピソードを話す必要もなければ、人の悪口で盛り上がる必要もない。相手の話を「へぇー。そうなんですねぇ!」と相槌を打ちながら聞くだけでいい。人間は基本的に話を聞いてもらいたい生き物なので、むしろ自分の寒いエピソードトークを挟むのは邪魔である。

カーネギーの本を初めて読んだのは社会人一年目のときだった。とても感銘を受けたのを覚えている。会話とは「話すもの」だと思っていたが、まさか「聞くもの」だったとは盲点であった。

陰キャは口下手だが、聞き上手ではない。話せない分、不完全燃焼な自己主張が体内に渦巻いている。よって、会話の口火が切れると高速で捲し立てるのである。意識してないと自分の話ばかりしてしまうのだが「聞くことに徹するのが正解」というムーブを知れば、行動は変えられるはずだ。

とはいえ、言うはやすし、行うはきよしである。試してみると、自然に傾聴するのは難しい技術であることが分かった。どうしても自分の興味のある話を入れたくなり、ジャンプ漫画の話に持っていってしまう。これではダメだ。練習が必要だと思った。

そこで身近な陽キャを相手に、会話の練習をすることにした。

話し相手になってくれて、私を傷つける可能性の低い陽キャを探した結果、美容師さんが最適だと分かった。なんといっても、こちらが金を払っているのがいい。私がいくら会話でスベろうとも、金を払っている限り、美容師さんがハサミを向けて襲いかかってくることはない(と信じている)。

そういうわけで、美容室を会話練習所にしている。これまで60回以上通って培った、私の陰キャ会話術を発表しよう。

会話のスタートは、こちらからの質問がベターである。こちらが何も喋らないと美容師さんから話題を振ってくれるが、そうなると展開が複雑になり、パターン化が難しくなる。

それに、ゆくゆくはお金を払っていない陽キャ相手にリアル会話をするようになるのだから、相手が気を遣って話題を振ってくれるのに慣れるのはよくない。やはり序盤は質問でこちらの流れを作るのが先決である。

私がよく使う質問はこんな感じである。

・最近ハマってることある?
・美容師してて楽しい瞬間ってどんなとき?
・髪切るときってインスピレーション湧くの?
・美容師道具にこだわりある?
・自分の髪切るときどうしてるの?
・ハゲてきたんだけど助けて。
・おまかせって言われたらどんな髪型にする?
・美容師じゃなかったら何を仕事にしてた?
・好きなジャンプ漫画は何?

いろいろ試した結果、美容師さんには、髪のことを聞くと話が盛り上がることが分かった。考えてみれば当然である。髪が好きだから美容師をしているのだ。好きなことなら、いくらでも喋ってくれる。こちらとしても、自分が知らない裏話を聞けるので楽しいというメリットもある。

ある人は「いつもの感じで、なんて注文されても、1ヶ月前の自分より技術が向上しているので、同じ髪型にはならない。むしろ良くなっちゃうよ」と思いながら髪を切っていると話してくれた。興味深い。「いつもの」が難しい注文だとは知らなかった。

またある人は「ハゲてきたんだけど」という私の悩みに対して、親身になって相談にのってくれた。「まだ頭皮動くから大丈夫っすよ!ハゲの人って石みたいにカチカチですから」という基本的な励ましから「ハゲって言ってもM字ハゲだから大丈夫っすよ!」という意味の分からない励ましまで、ありとあらゆる方向から励ましてもらって、ハゲ増し増しな会話になった。

このように陰キャが頑張って会話練習をしている。

意識して会話をしてみると、陽キャには聞き上手な人が多いことが分かった。こちらが「何ハマってますか?」と聞いているのに「うーん、最近何もしてないっすね。お客さんはどうですか?」と質問に質問で返されることが多かった。話を聞こうとこちらが努力しているのに、気づいたら自分の話を聞かれている状況に陥ることが多々あった。陽キャを相手にすると傾聴するのもひと苦労である。

聞き上手ということは、陽キャは性格がいいのだろう。自然体で相手に興味を持てるって、すごい能力だと思う。私も「陰キャだから会話術に頼らなきゃ」とか言ってないで、自分の性格や人徳を見なおしてみようかな。

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