爪にドリルすんのかい?せぇへんのかい

コラムの第10回。

今回のテーマは「爪」である。

別になくても困らない人体の部位ランキングを個人的に発表すると、一位すね毛、二位ちくび(男性に限る)、三位爪である。

すねに毛が生える意味が、本当によく分からない。毛が生える理由は、物理ダメージを軽減するためだと聞いたことがある。それにしても、私のすねは防御力が高すぎないか。毛を通り越して海苔である。中学校の体育の時間、同級生の女の子に「えっ!足黒っ!」と驚かれたのがトラウマとなり、半ズボンを履けない呪いにかかった。きっと私の先祖はすねを蹴られて絶滅したに違いない。そうでなければ毛量の設定がおかしい。

また、男性にちくびが付いている意味もよく分からない。腹踊りをするときに目を描かずに済むという点や、ダーツの練習をするときの的に使えるという点では便利だが、ランニング時に擦れて涙目になるなどのデメリットを考えると、無い方が好ましい。

すね毛やちくびに比べると、爪はまだ実用性がある。缶コーヒーを開けるときに役立つし、蚊に刺されたところを掻くのに便利である。色を塗ってオシャレを楽しむという手もある。

だが、私はペットボトルコーヒー派だし、蚊に刺されたとこにはムヒ派だし、オシャレサイドからソーシャルディスタンスをとられているので色を塗ることもない。よって、爪の存在を意識することはほとんどない。伸びてきたころに「そういえば爪あったな」と存在確認するだけである。

そんなふうに爪を軽んじていたバチが当たったのだろうか。最近爪を失うことになった。無くても困らないと思っていたが、いざ無くなってみると喪失感がすごい。

最近のヤングは「失って初めて大切なものに気づくなんてダサい」という価値観を持っているらしい(ソースは藤井風さん)。ということは、爪が無くなったことに思いの外ショックを受けている私は、かなりダサいといえる。

爪が無くなった上に、ダサさに磨きがかかるなんて、あんまりである。私に限らず、長く生きていれば爪の一つや二つ、ふっとぶことなど、めずらしくはないだろう。そんなとき、とっさにダサくならないためには、爪がなくなるイメージトレーニングを積んでおけばいいと思う。今から爪が無くなった経緯を話して読者の記憶に爪痕を残すので、イメージ力を高める助けになれば幸いである。

あれは数ヶ月振りにバスケの試合をしたときのことだった。レイアップシュートのためのジャンプを踏み切ろうとしたところで、つま先に「ピリッ」という違和感が生じた。家に帰って見てみると、足の爪がドス黒く変色していた。「あっ、これあかんやつや」と瞬時に悟った。

インターネットのヤホーで「爪 黒い 内出血」と調べてみると、私と同じような黒い爪の画像が現れた。爪下血腫という名前らしい。犬夜叉の必殺技みたいでかっこいいなぁ(それは飛刃血爪)などと薄い感想を漏らしながら、今度は「爪下血腫 治し方」と入力してみた。爪にドリルで穴を開けて血を抜くしかありません、と書かれていた。何の拷問だろうか。絶対に嫌だ…。

昔、ジャンプに連載されていた梅澤春人さんのLIVEという漫画で、爪の間にハリガネムシを入れる拷問が描かれていた(お食事中の方ごめんなさい)。爪の隙間にモノを入れるのは強い痛みを伴うらしい。きっと血を抜くのも痛いに違いない。世の中には孫を目に入れても痛くないと豪語する老婆がいるそうだが、私には爪にドリルするのですら耐えられそうにない。

しかし、ドリル自体には興味がある。自分の体にドリルされるチャンスなどめったにあるものではない。ドリルを構えたお医者さんと一緒に、吉本新喜劇的な「ドリルすんのかい?せえへぇんのかい!」ができると思えば楽しみだ。だが、それ以上に痛みが怖い。やっぱり病院には行けそうにない。

よって、自らの自然治癒力に賭けて、経過観察することにした。

1日後〜1ヶ月後まで。爪の色や形には、特に変化が見られない。しいて言えば、歩くときの違和感というか、微小な痛みが減ってきた気がする。治ってきたのかも知れない。黒い爪が気になるのか、1歳の娘が踏みつけたり、剥がそうとしたりする。娘の指が爪に掛かるたび背筋に寒気が走る。

1ヶ月後〜2ヶ月後まで。爪がグラグラしてきた。風呂に入ると、爪の間の血腫がふやかされるようで、爪の間から出血するようになってきた。おかげで白い靴下が履けなくなり、靴下の数がミニマルな私は、なけなしの黒靴下の洗濯が間に合わず困る事態になった。血腫は少しずつ減ってきており、爪の黒色が薄くなってきた。治っているのだろうか。悪くなっているのだろうか。痛みは完全に無くなった。

2ヶ月後過ぎ。爪が剥がれた。痛みは無かった。古びた爪がポロンと取れた。爪が無くなると、喪失感がすごい。長年連れ添ってきた金魚が死んだような感覚である。だが、よく見ると、取れた爪の下には、赤ちゃんのような爪が生えていた。心もとない爪ではあるが、爪は爪だ。自然に治ったと言っていいのではないか。私は賭けに勝ったのだ。

言い忘れていたが、爪が死んだのは同時多発テロであり、黒くなった爪は二枚あった。剥がれた爪は左足の中指。そして、右足の親指にはまだ、大きな黒い爪がついている。こちらもグラグラしており、収穫の日が近そうであるが、いかんせんデカイ爪なので、痛みなくポロッと取れるか不安で夜しか眠れない。

以上、誰の得にもならない爪喪失エピソードであった。私は怖くて爪ドリルできなかったが、もし爪ドリルしたことがある人がいれば、ぜひ感想を教えていただきたい(主にお医者さんがどんな表情でドリルするのかを聞きたい)。

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