藤井聡太さん、前人未到の八冠おめでとうございます

コラムの第27回。

今回のテーマは「将棋」である。

2023年10月11日、藤井聡太さんが前人未踏の偉業を達成した。将棋の八大タイトルすべてを奪取したのである。

これにより藤井聡太名人王位叡王棋王王将棋聖王座という長い名前になった。総画数は148画。テスト用紙に名前を書くのが大変そうだ。

藤井聡太名人王位叡王棋王王将棋聖王座(いいかげん長いので藤井さんと呼ぶことにする)よりも前に、タイトル獲得数記録を持っていたのは、羽生善治さんの七冠だった。

といっても、羽生さんの当時はタイトル自体が7個しかなかった。タイトル独占という意味では羽生さんも藤井さんも同じなので、どっちが偉いのかは一口には言えない。どっちもすごい。

羽生さんのイメージがあるからかもしれないが、将棋の達人は「人類の中でも飛びぬけて頭がいい人」という印象がある。チェスや囲碁の達人も天才たちなのだろうが、将棋の達人は特に尊敬に値する。

なぜかというと、私が将棋を習っていたからである。将棋を極めることがどれだけすごいことなのか、ぼんやりとだが想像できるのだ(実際は、私のような凡人の想像の1兆倍すごいのだが)。

今回は、藤井さんの偉業記念ということで、将棋に関する雑学を披露したり(ソースはwikipedia)、将棋の思い出を振り返ったりしてみたい。

将棋タイトル戦の序列

2023年現在、将棋には八個のタイトル戦がある。

タイトルとは、言わばボクシングのチャンピオンベルトのようなものだ。

竜王戦、名人戦など、それぞれのタイトル名を冠したトーナメント戦を行い、挑戦者を決める。晴れて挑戦者となった人は、現役のタイトルホルダーと番勝負(複数対戦して多く勝った方が勝者)を行い、勝てばタイトル獲得となる。

タイトルには序列が存在する。

一番強いタイトルは竜王。同格で名人。その次が王位。あとは、叡王、王座、棋王、王将、棋聖の順に序列が下がる。何で序列が決まっているかというと「金」である。序列の高さは賞金で決められる。

dmenuマネーの記事によると、各タイトルの賞金額は以下のように推定されている。

竜王:4400万円
名人:2000~2500万円
王位:700~1000万円
王座:500~800万円
棋王:500~600万円
叡王:300~600万円
王将:300万円
棋聖:300万円

私のような庶民からすると、とんでもない金額である。王将位を獲得したら、その300万円で王将の餃子が6万5千個以上食べられる計算になる。

将棋はマイナー競技ということで、他のスポーツのトップ選手に比べると額は少なめではある。たとえば、NBAで現在最高年俸のジェイレン・ブラウン選手は1年あたり約85億円の給料をもらっている。王将の餃子で言えば1億8545万個食べられる計算になる。

だが、人間が1年に食える餃子の量は、せいぜい1万個であり、上限がある。そう考えると、私も藤井さんやブラウンと同じ量の餃子を食っているのだから、給料に差はないと言える。平等な世の中でよかった。

将棋タイトル戦の歴史

歴史の深さでいうと、タイトルごとに大きな違いがある。最も古いのは1935年度に始まった名人戦、一番新しいのは2017年度に始まった叡王戦である。まとめると以下のようになる。

名人:名人戦は1935年~。江戸時代は世襲制だった。
九段:1950年度~。1962年に十段へと改称。1988年に消滅
王将:1951年度~。
王位:1960年度~。
棋聖:1962年度~。
棋王:1975年度~。
王座:1983年度~。
竜王:1988年度~。十段の発展系として爆誕。
叡王:2017年度にタイトル戦へと昇格。

叡王がタイトルに昇格するまで、1988年~2017年までの29年間は7大タイトルの時代だった。叡王戦はドワンゴ主催で2015年に始まった。当初は優勝者がAI(電脳戦の優勝プログラム)と対局するものだった。

叡王戦の現在のスポンサーは不二家。対局中のおやつにも注目が集まっている。2023年の叡王戦では、叡王の藤井さんが「不二家厳選あんみつ」、挑戦者の菅井さんが「ハイカカオチョコタルト」をおいしくいただいたそうだ。腹減ってきた…。

永世タイトル

通常のタイトル以上に強いタイトルというのも存在する。永世タイトルである。永世タイトルは、通常のタイトルを連続または通算で獲得し続けるとゲットできる、激レアなタイトルなのである。獲得条件は以下の通り。

永世竜王:連続5期 または 通算7期
永世名人:通算5期
永世王位:連続5期 または 通算10期
名誉王座:連続5期 または 通算10期
永世棋王:連続5期
永世王将:通算10期
永世棋聖:通算5期
永世叡王:通算5期

激レアな8個の永世タイトルのうち、7個を持っている化け物が羽生さんである。藤井さんも将来は永世八冠になる可能性は高そうだが、現時点では、羽生さんの方が偉大さで勝りそうだ。

将棋の思い出

藤井さんと羽生さんの後にレベルの低い話をして恐縮だが、私も将棋を習っていた。毎週土曜日に、近くの公民館で将棋教室が開催されており、小学生のときに3~4年ほど通った。

きっかけは忘れた。おそらく、今は亡き祖父に連れていってもらったのだろう。休日に遊ぶ友達がいないので、当時の私は暇だった。特別将棋が好きなわけではないが、暇つぶしに通っていた。

将棋教室に通う人の95%は高齢者だった。

残り5%が私のような小学生。コミュ障なので他の子どもと会話するのは不可能だったが、教室の雰囲気的にお互い目が合ったら対局するポケモントレーナー方式が成り立っていたので、拳で語り合う不良たちのごとく、躍動する駒たちの動きで語り合った。

小学生が少ないため、必然的に同じ相手と何回も対局することになる。二つ年下の男の子とよく対局していたのだが、私は彼に一度も勝てなかった。

彼は駒を移動させるときに「じゅーぐー」という効果音を口から放つ、個性的な人だった。「じゅーぐーとは何ですか?」と聞くほどの会話力もないため、ひたすら「じゅーぐー、じゅーぐー」というサウンドを聞くだけの対局時間を過ごした。

私は、落ち着きのない奴だな(主に口が)、と思っていた。

が、そんな落ち着きのない彼の手筋はよく研究されており、いつもコテンパンにされた。「じゅーぐー」を連呼するおかしなやつが、なぜか将棋はめちゃくちゃ強い。同じ教室に毎週通っているはずなのに、彼との実力差は開くばかりであった。不思議だった。

あるとき、彼が家に帰ってからも、ずっと将棋ゲームをやっているという噂を聞き、合点がいった。彼との差は、才能の差ではなく、練習量の差だったのだ。

「そうと分かれば自分も練習だ」と意気込み、詰将棋の本を買い、将棋ゲーム(任天堂64の加藤一二三さんのゲームだったと思う)も購入した。しばらく練習して気が付いた。「あ、ぼく、将棋すきじゃないや」

ゲームとはいえ、将棋は将棋である。画面の中でまで将棋を指し続けるのに嫌気がさした。自分はじゅーぐー少年ほど将棋にハマれない人間だと悟ってしまった。彼には一生勝てない。そう思うと、将棋への熱が一気に冷め、将棋教室からも足が遠のいた。

小学生のうちに「質より量」だと気づけたのは大きかったが、その量をこなすことが自分にはできないということにも同時に気付いてしまったわけだ。藤井さんも羽生さんの将棋の努力量は、きっと尋常ではないはずだ。

自分が将棋に挫折したからこそ、どれだけ将棋に向き合うことが難しいかがわかる。21歳で八冠を達成した藤井さんは、誰よりも将棋の才能にあふれているのだろうが、それ以上に誰よりも努力してきたのではないだろうか。

序盤、中盤、終盤、隙がないように思われる藤井さんだが、終盤が圧倒的に強いらしい。終盤の強さ秘訣は、幼いころから夢中になって続けてきた詰将棋にある。解いた問題の数は1万を超えるそうだ(たぶんもっと解いているはずだ)。対局に負けた真夜中でも、詰将棋を3時半から30分かけて考えて「これは解けないですね」みたいな感じで、将棋が好きでたまらないから、努力をいとわない

将棋に限らず、どんな分野でも、一つのことに夢中になって打ち込む姿は尊いものである。藤井さんは人類の一つの到達点である。あらゆることを途中で投げ出してきた私が同じ人類なのが恥ずかしい。生まれ変わったらミジンコになる予定なので許してほしい。それくらい尊敬している。

だから、藤井さんの八冠のニュースは、私の中で人類が月に初上陸したくらいの偉業に感じている。これからも、ぜひ頑張ってください。

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