ゲド見てジブリ見ず:温厚な先輩を怒らせてしまった話

コラムの第40回。

本日の新ことわざ
「ゲド見てジブリ見ず」
相手の好きな作品を評価するときは、ある一部分だけを味わって「これはダメだ」とけなしてはいけないという意。全話見るのが礼儀である。さらに言えば、嘘でも褒めるのが正解。

どんなに気心がしれた間柄でも、超えてはいけない一線ってあると思うんです。たとえ悪意がなくても、絶対言っちゃいけない、地雷みたいなワードがあるものです。

今回は、大学院時代に仲の良かったSさんの話です。Sさんは研究室の1個上の先輩で、おっとりクール系男子なんですけど、一度「好きだ!」と思ったらその感情に忠実なところがある人でした。

たとえば、学会で徳島県に行ったときのことです。ホテルから会場まで、歩いて20分くらいの距離だったんですね。まぁタクシー拾うほどでもないかぁと思って、研究室メンバーでダベりながら歩いてました。

そしたら、その20分の間で、Sさんが急に一眼レフカメラが欲しくなったらしく。

「俺、カメラ買うわ!」

と言い残して道沿いのヤマダ電機に入店。そのまま人生初の一眼レフカメラを買って出てきました。いや、コンビニでおにぎり買うときのスピード!早すぎます。

とか言ってますけども、私もかなりの単細胞でして、インターネットを契約した弾みで、財布の紐がダルダルになり、「今Macbook Air買うと割引きしますよ」のひと押しで衝動的に買っちゃったことがあります。似たもの同士、Sさんには強いシンパシーを感じてました。

Sさんは、貴重な筋トレフレンドでもありました。毎日15:00くらいになると「研究つかれたなー。そろそろいくか?」と誘い合って、学内のウェイトトレーニングルームに通い、一緒にベンチプレスを上げ、シャワーを浴びて、居室のプロテインで一杯やる。これが私たちのルーティンでした。

「Sさん、また腕太くなったんじゃないですか?」
「そう?そうかなー(ニヤニヤ)」
「そうっすよ!Tシャツがピチってますし」
「おまえもデカくなったよなー」

筋肉を褒め合うのって、すごい仲間意識が芽生えるんですよ。私とSさんは、友情以上に強い絆「筋繊維」で繋がっていました(うまいことを言った)。

ある日、Sさんが「水曜どうでしょう」の大ファンだという話を聞きました。水曜どうでしょうというのは、まだ若かりし大泉洋さんが北海道のローカルタレントして出演していた番組です。

広く言えば旅番組なんですけど、どちらかというとすごろくに近くて。地名が書かれたサイコロを転がして、出た場所に移動しながら、目的地を目指すというものです。これが最高に面白いんだと力説されました。

当時の私は水曜どうでしょうを知らなかったので、ふーんそうなんだーと聞いてました。すると、Sさんはこんなことを言いました。

「水曜どうでしょうのおもしろさが理解できないやつとは分かりあえない」

それくらい面白いということでしょうか。Sさんが推すほどの番組であれば面白いに違いないし、それに私はSさんと相性がいいと感じていましたから、きっと自分も水曜どうでしょうにハマるだろうと思いました。

こういうとき、普通ならビデオ屋さんに行って、第1話から借りて見ると思います。お世話になっている先輩のオススメですから。最初から見るのが礼儀と言えます。

しかし、ものぐさな私は、見ようと思ったものの、なかなかビデオ屋さんに行く気がおきず、放ったらかしにしていました。

それからしばらくして、偶然みていたテレビで、水曜どうでしょうの再放送が流れました。あっ、これSさんが言ってたやつだと思って、そのまま見ることにしました。

その回は「原付ベトナム縦断1800キロ」でした。

大泉さんが、ミスターと呼ばれる謎の男と一緒に登場。どうやら、原付(カブ)でベトナムを走り抜け、7日間のうちにホーチミンにたどり着けるか?というゲームをしているようでした。

あとで知ったのですが、そのベトナムの旅は、6年放送した水曜どうでしょうにいったんのピリオドを打つ最終回的なものだったそうです。

それをみた私の感想は「あれ…。別に面白くないな」でした。

考えてみれば当たり前です。最終回だけ見ているのですから。スラムダンクで言えば山王戦の残り5分です。宿敵・流川から初めて出された桜木へのパス。「左手は添えるだけ…」桜木が2万回練習したジャンプシュートで逆転のブザービーター。あの流川と桜木がハイタッチ。スラダン読者なら誰もが感動するシーンですが、そこだけ初めて読んだら何のこっちゃで「別に面白くないな」と感じると思います。

私が水曜どうでしょうに感じたのもこれと同じで「よくわかんないから、面白くない」だったのだと思います。しかし、当時の私はそんな分析なんてできません。

面白くなかったけど…そのまま伝えたらSさん傷つくかな?でも、面白かったと言ったら嘘になるし。どうしたらいいんだろう。とても悩ましかったです。

散々悩んだ挙句、次の日、Sさんに言いました。

「水曜どうでしょう観てみたんですけど、なんというか、自分には面白さが分かりませんでした」

普段はとても温厚なSさん。しかし、そのときばかりは目つきが鋭く変わり、低く重い声でひと言。

「はぁ?」

そのままどこかに去ってしまいました。

やばい、地雷踏んでしまった。嫌な汗が背中を流れました。Sさんが水曜どうでしょうを理解できないやつとは分かり合えないといったのは、それくらい面白いという例えではなく、本当に分かり合えないという意味だったようです。

私は二択を間違えてしまったのです。

なぜ、私は面白くないといってしまったのかというと、Sさんならありのままの私を受け入れてくれるだろうと思ったらからです。でもこれって、甘えているだけなんですよね。

誰だって大好きなものを否定されたらいい気はしません。ましてや私は一回しか見てないわけですから。「ゲド戦記みたんやけど、スタジオジブリってしょぼいな」って言ってるようなものです。そりゃ怒って当然です。

ゲド戦記だけを見ても、スタジオジブリの良さは分かりません。せめて、風の谷のナウシカ、耳をすませば、天空の城ラピュタは見ろよ!と言いたくもなるでしょう。このように、一部分だけ見て「つまんねぇ」と評価してしまうダメ人間を「ゲド見てジブリ見ず」と名付けたいと思います。

さて、Sさんを怒らせてしまった反省から、水曜どうでしょうを第一話から全部みることにしました。そしたら、めっちゃ面白かったです。

後日、Sさんに謝って仲直りしてもらいました。相手の好きなものを安易に否定しちゃだめなんだなって、そのときに強く思いましたね。

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