初めて超伝導物質を触ったらビクともしなかった

おもしろ科学の第2回。

東大のサイエンスショー

10年ほど前、東京大学が主催の「中高生向けのサイエンスショー」をお手伝いさせていただく機会がありました。「米村でんじろう先生みたいなことをやる」と言えば通じると思いますが、当時はまだサイエンスショーの認知度が低く、私も「なにすんの?」というレベルでした。

子どもが見た瞬間「うわぁ!すげー!」となるものってなんだろうね。そんな話を研究室でしていると、ヒョイっと入ってきた教授がこんなことを言いました。「いいものがあるぞ」そう言って持ってきたのは、エンゼルフレンチくらいの大きさの黒い物体でした。

聞くと、世界にまたとない巨大な高温超伝導体なのだとか。「液体窒素で冷やしたら浮くぞ」と言う教授。この黒い円盤が浮くのかぁ。すげぇ。かっけぇなぁ!と思いました。私にとっても、それが初めて生で見る高温超伝導体だったので、めちゃくちゃワクワクしました。絶対子供が喜ぶやつです。

とはいえ、そんな貴重な試料を子ども向けのショーにホイホイ出していいの?と思いましたが、「いいのいいの」と教授がいうので、本当にショーに使うことになりました。

液体窒素でうがい?

うちの教授、物理学会では世界的権威なのですが、ちょっとクレイジーなところがありまして。たとえば「液体窒素でうがいできる」とか言うんです。

私たちが「いやいや~無理でしょ」と言うと、「みせてやる」と実験室に入っていって、液体窒素の瓶を持ち、口の中にジャー!そのままガラガラガラと3秒ほど本当にうがいをして、スモーカー大佐くらい大量の煙をフォーっと吐いてました。

後でカラクリを教えてもらったのですが、これはライデンフロスト現象と呼ばれる有名な科学マジックだそうですね。

液体窒素は口に触れると一瞬で蒸発して窒素ガスを発生させるという性質があります。この窒素ガスが断熱材となって口をコーティング。魔法瓶の中に冷たい麦茶を入れても外側は冷たくないのと同じ理屈で、口が凍傷にならないらしいのです。

理屈は分かりましたが、還暦手前の大教授がやることではありません笑。

肝が据わっているというか、クレイジーというか。ほんとうに凄い人でした(リスペクトしかありません)。ちなみに「液体ヘリウムでやると大けがするからダメだぞ」と教授が注意してくれたのですが、いやいや、液体窒素の時点でも怖くて真似しませんから笑。

高温超伝導体の磁気浮上。触ってみるとビックリ

そんなクレイジーな教授のおかげで、超貴重な巨大高温超伝導体を見ることができました。さらに、ちょっとだけ触らせてもらえたんですが、その感触が意外過ぎて「えっ!マジで!?」となりました。

この感動を伝えるには、サイエンスショーの説明をしなければなりません。

下の図のようなイメージで、まず液体窒素で冷やした超伝導体を用意します。その上に永久磁石を置きます。すると、永久磁石がフワッと浮きます。「磁気浮上」と呼ばれる現象です。

浮上しているのは超伝導体そのものではなく永久磁石の方なのですが、重そうな物体が空中浮遊している不思議な光景には「おぉっ!」となります。クララが立ったときくらい衝撃があります。

国立大学55系工学部HP「超伝導体による永久磁石の浮上」より転載。

これを見て私はこう思いました。「ははぁ、磁石と超伝導体が反発しあって、重力に打ち勝っているんだな」と。

ちょっと難しい話になりますが、超伝導体は「電気抵抗がゼロ」という特性ゆえに、磁力が物質内に入っていかないという性質もあります。つまり、磁石に反発するんです(マイスナー効果)。

「この磁石触っていいですか?」と教授に聞きました。どのくらい重い磁石が浮いているんだろうと単純に気になったからです。「いいよ」と許しが出たので、ヨッと磁石を持ち上げようとしたそのとき。「えっ!マジで!?」

ビクともしなかったんです。

上に引っ張っても、下に引っ張っても、ピクリともしない永久磁石。これ伝わりますかね?見えない念能力で磁石がその空間に固定されている感じ。めちゃくちゃ不思議なんですよ。

単に磁石が反発しているだけなら、磁石をヒョイっと持ち上げられるはず。その頭で触っているので、ビクともしないと「なんで!?」って思います。

簡単に言うと、超伝導体の「マイスナー効果」ではなく「ピン止め効果」で浮いているから、こんな風に空間固定されるんです。磁力がほんの少しだけ超伝導体の中に入り込んでいて、その磁力の棒みたいなものを超伝導体がガシっと掴んでいる(ピン止め)。超伝導体と磁石は見えない磁力の棒で固定されているから、ビクともしないという話でした。

私はとてもビックリしたのですが、超伝導の磁気浮上が「マイスナー効果」ではなく「ピン止め効果」という話は、物理を学んだ大学生なら「常識っしょ」と言うかもしれません。私が勉強不足なだけですね。東大の秀才たちの中で、ものをしらない私が一番”浮いて”いました笑。

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