読書感想13.「がんばらない教育」笑い飯・哲夫さん

読書感想の第13回。

座右の銘がダサい

高校3年生のときの文集を発掘しました。もう15年前に書いたものです。気になって、自分の自己紹介を読んでみると、パッと目についたのが座右の銘。「人間いたるところ青山あり」と書いてありました。

これは「故郷を離れることに躊躇してはいけないよ」という意味の諺(ことわざ)です。青山は墓地のこと。人間どこにいっても、骨を埋める場所くらいはあるものだから、うじうじしてないで、故郷から飛び出しなさい、と励ます言葉だそうです。高校卒業を目前にした若き日の私は、この諺を「故郷を離れて都会に旅立つ自分」に重ねて書いたのでしょう。

自分のことながら「こいつイキってんな」と思いました。

というのも、座右の銘をみた瞬間に当時のことを鮮明に思い出したのですが、「人間いたるところ青山あり」と書いた理由は、うまいこと言おうとしたからではなく、「俺っち、こんなに難しい言葉を知ってるんだぜ」と知識マウントを取りたかったからでした。

当時読んでいた奥田英郎さんの小説「家日和」の中に「ここが青山」という短編がありました。「人間いたるところ青山あり」は、この短編に出てくるフレーズです。つまり、覚えたての難しい言葉をつい使ってしまったのです。非常にダサいです。

ちなみに、この人間という言葉、正しくは「じんかん」と読むのですが「にんげん」と間違えて覚えている人が多いです。さらに青山は「せいざん」と読むのが正しいのですが「あおやま」と間違えられがちです。短編では、偉そうに諺マウントを仕掛けてくるやつに限って「ニンゲンいたるところアオヤマあり」みたいにガッツリ間違えてくるから引っかかるなあ、という風に紹介されていました。

これを読んだ私は何を思ったか「俺は人間を読み間違えないぜ、すごいだろ」と座右の銘スペースで披露したのです。間違えるより数倍ダサいことは言うまでもありません。

もしタイムリーㇷ゚できるなら、高校3年生に戻って「なに偉そうに書いてんねん」と自分をしばき倒し、座右の銘のところに「もっとホメてくれ」と書かせます。これは敬愛するスラムダンクのキャラクター福田吉兆の口癖です。このくらいアホな言葉の方が可愛げがあります。

つくづく言葉って大事だなと思います。なんでこんな話をしているかというと、笑い飯 哲夫さんの「がんばらない教育」という本を読んで「言葉って大事だな」と思ったからです。「がんばらない教育」が何なのかについては後で触れますが、私がいいなあと感じたのは、哲夫さんのこんな考え方でした。

いい言葉の手本を見せる

子どもに一番なってほしくないのは、賢いのに憎たらしい喋り方です。もし息子が「お父さん、先日お尋ねした水上置換についてですが、水上置換に関するお父さんの解説には、3点ほど誤りがありましたよ」みたいなことを言ってきたとしたら、絶対に泣かすと思います。

(中略)ということで、偉くない人のほうが偉そうに喋る、偉い人のほうが偉そうに喋らない、という世界の真理を、若いうちに教えることが重要だと思います。

(中略)そして結局は、子どもは身近な大人の口調を真似して使います。(中略)絶対に死ねと言いませんし、エモいとも言いません。かっこええなあと言ってますし、綺麗やなあといっていますし、めっちゃ美味しいなあと言っています。ごめんなあ、ありがとうなあ、と言っています。(中略)が、そんなことよりお父さんの真似をして、うんちの話ばかりします。

「がんばらない教育」笑い飯 哲夫、扶桑社(2023年)

子どもに真似してもらえるように、普段からいい言葉を使おう。素晴らしい考え方ですね。哲夫さんみたいな、こんな素敵な言語感覚を持ったお父さんの言葉に日常的に触れられる子供たちは、とても幸せだろうなと思いました。

親が可愛げのあるいい言葉を使い、子どもが自然と真似をする。そういうのを良い教育というのでしょうね。そして、最後にうんちでちゃんとオチを作るあたり、プロの芸人さんだなあと思いました。

本の紹介

前置きが長くなっちゃいました。ようやく本の紹介です。

笑い飯の哲夫さんは、お笑い芸人さんです。2010年にM-1で優勝したのはみなさん知ってると思います。その後、仏教を勉強してるなあと思っていたら、2015年から塾の経営を始めたそうです。動機は「子どもたちには全体的に勉強して賢くなってほしい」から。

僕がちっちゃいころは、近所に月3000円くらいで勉強を教えてくれるおばあちゃんがおって、それがなんだかよかったんですよ。

「がんばらない教育」笑い飯 哲夫、扶桑社(2023年)

昔は安いお金で教育が受けられたそうですが、今の塾代は月6~7万かかることもあります。金持ちだけ賢くなれるのも変な話です。もうちょっと安く教えてくれるところがあったらええのにな。そう思って始めた哲夫さんの塾は、月謝が15000円。大阪市から補助がでるので、家庭の負担は月5000円だけです。

若いころは、自分の進学については「自力でやりとげた!」と思っていましたが、ようよう考えてみたら周りに支えてもらってできたことなんですよね。若いころはそこに気が付かなかったので、今度は支える側に回れたらと思っています。

「がんばらない教育」笑い飯 哲夫、扶桑社(2023年)

哲夫さんの他者を思いやる気持ちが溢れています。すごいなあと思いました。仏教を学んできたからなんですかね。

「ようよう考えてみたら周りに支えてもらってできたこと」の部分にはハッとさせられました。だって、私は現在進行形で「自力でやりとげた!」と考えてますから。それを「周りのおかげや。自分も還元しよう」と思える人間のデカさ。哲夫さんは、もう人を超越してます。仏人です。

さて、本書は、塾を経営されている哲夫さんが、育児にまつわる相談を受け、それに対して一生懸命考えて答えるというものです。笑い飯イムズなユーモアが満載で、たいへん面白い回答となっていました。面白いだけでなく「その角度から答えられるの!?」と唸る回答も。たとえばこんな話がありました。

芸人を目指したい!という息子

相談者は、高校2年生の男の子の父親。進路について話していたら「大学にはいかずにNSC(吉本の芸人養成所)に入ってお笑い芸人になりたい」と言い出した。父としては、失敗したときの保険として大学には行ってほしい。どうしたらよいでしょうか、という相談でした。

これに対し、哲夫さんはこう答えました。

「大学に受かったら芸人になってもええぞ」と言いましょう。そうすれば息子さんは直ちに受験勉強を始めるでしょう。それに、夢は変わるものです。同じ人間でも16歳の夢と18歳の夢は違います。成長の過程で憧憬は右往左往します。しばらく放っておきましょう。

これだけでも神回答なのですが、哲夫さんはまだ追撃します。

それはそうと、芸人になりたいと言えて、それを親御さんが頭ごなしに否定しない家庭っていいですね。ただならぬ温かさを感じました。おそらく、洗面所にはふわふわのタオルが掛かっているようなお家ではないでしょうか。(中略)芸で大成したいなら、早いうちに親の手を離れる必要があります。

「がんばらない教育」笑い飯 哲夫、扶桑社(2023年)

家庭環境が居心地のいいものであることを見抜き、そのうえで「一回きびしい生活して自立せんと売れないよ」とプロ目線でアドバイスします。すごくためになります。もしうちの息子が「芸人になりたい」と言ったら、そのままパクって答えようと思いました。

あとですね、この「ふわふわのタオル」がフリになっていて、最後にいいオチが用意されているのですが、みなまで言ってしまうのは野暮ですので、ここでは伏せたいと思います。省いてしまいましたが、この回答の冒頭には、プロの大卒芸人である哲夫さんの文章表現力がいかんなく発揮された例えもあります。それも圧巻でした。

さすがM-1チャンピオン。相談に対する回答が万事このクオリティで、ためになるわ。おもしろいわ。これだけ練られた回答を連発しているということは、普段から育児についてよく考えている人なんだろうな、というのが伝わってきました。

「がんばらない育児」とは?

最後に、本書のテーマである「がんばらない育児」について、ちょっと話します。哲夫さんは、育児について、こんなスタンスでいらっしゃいます。

仕事に育児に忙しくて、日々精いっぱいという親御さんも多いと思います。そんなみなさんに伝えたいのは、「がんばらないでいい」ということです。自分で何でもしょいこまずに、人に任せたり、塾でも親戚でも近所の人でも、利用できるもんは利用したらいい。子どもがある程度の年になったら、子どもに頼ってもいい。小学校の高学年にもなると、友達同士で自分がいかに大人かを言いあったりするじゃないですか。「靴下は風呂場で洗ってる」「朝ごはんのパンは自分で焼いてる」て。自分のことを自分でできるのはカッコいいと教えることも教育ですし、生きるうえで一番大事なことですからね。

「がんばらない教育」笑い飯 哲夫、扶桑社(2023年)

ここからは、本書を読んで感じた、私の超個人的な解釈です。哲夫さんの育児哲学でいう「がんばらない」は、三つの意味を含んでいるように思います。

一つ目は「周りに任せましょう」ということです。

親が楽していいよ、という意味でもあるのですが、それに加えて「子どもはいろんな人と関わった方が成長するよ」というメッセージが込められているように思います。

じいちゃんと農業やってみたり、水泳習ってみて失敗したり、先生に「今日は24日だから2+4で出席番号6番の人」とふざけた当てられ方をしたり。そういう様々なコミュニケーションを経験していく中で、子どもは育つものだ、だから「がんばらない方がいい」と哲夫さんは考えているように思います。むしろ親がひとりで頑張ってしまうと、子どもの成長機会を奪うことになります。

二つ目は「子どもの自立を促しましょう」ということです。

子供は好奇心の塊です。「自立したい、成長したい」という欲求を本能的に持っています。子どもの自立心を伸ばしてあげれば、親はがんばらなくて良くなります。何もかも与えるんじゃなくて、ちょっと貧乏させたっていいんです(むしろ、それが友達と喋るネタになると哲夫さんは言います)。

自立で言うと、私の例で恐縮ですが、小学生の夏休み、毎朝チャリをこいで「朝食のパンを買いに行く」というミッションを与えられたことがあります。母の狙いの半分は「夏休みくらい朝ごはん作るのサボりたい」だったと思いますが、このときの私はパン屋に行って買い物するのが大人っぽくて楽しかったのを覚えています。これも自立の一つだと思います。あと、りんごの皮むきミッションも課されまして、夏休みでりんご1個を回し剥くスキルを習得しました。

三つ目は「維持し辛いこだわりは捨てましょう」ということです。

仏教でいうところの執着ですね。やれ北欧のおもちゃがいいとか。やれおもちゃはミニマルがいいとか。夫婦の中でも育児観の違いが出るものです。ましてや世間とはもっと差がでます。「男らしくしなさい!」なんて今の世の中で言ったら「ギョッ」とされますが、哲夫さんは古風な子育て派なので「男らしく、女らしく」はウェルカム。世間の意見への執着を離れています。

こだわりや執着は、持ち続けるのがしんどいと感じたら、捨ててしまうのが楽です。がんばって持たなくていい。むしろ諦めるのが正解です。これは仏教の中心的な考え方です。あと「中道」と呼ばれるバランス感覚も、あきらめ具合を見極めるうえで大事です。極端になりすぎず、あきらめすぎず。子どもに過度に期待しすぎず、かといって道徳だけはキチっとする。この辺の感覚を持てると、あとは頑張らなくてよくなる、と哲夫さんは仏教に学んでいるように思えます。

柄にもなく真面目なことを書いてしまいました。記事を書くのにがんばりすぎて疲れたので、オチを考えるのは諦めようと思います。オチが必要という執着よ、サラバ。

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