【ハンニバる】明らかに失敗しているのにノーダメージを演出する技術について

コラムの第56回。

本日の造語:ハンニバる
【はんにばる】明らかに失敗しているのにノーダメージ感を演出すること。ダサいが、役に立つ。
中田はじめさんの「コケてましたよ!」

私は関西の人間なので、小さいころから吉本新喜劇を見るのが大好きでした。特に好きだったのが中田はじめさんです。

舞台に登場するときに、必ず転倒する中田さん。起き上がった後「あぶな~っ!もうちょっとでコケるとこやったわ~」と言い、全員から「コケてましたよ!」と突っ込まれるギャグが持ちネタです。

ベタベタなネタですが、ノーダメージ感を演出するダサさが面白く、何度見ても笑ってしまいました。そんな定番の「あぶな~っ!」ですが、これに匹敵するノーダメージギャグが、今から2000年以上前に使われていた可能性があるんです。

ノーダメージ感の演出は役に立つ

ノーダメージ感の演出家の名前はハンニバル。「ローマ史上最強の敵」と呼ばれた男です。ハンニバルはカルタゴ軍を率いる将軍でした。

「カンナエの戦い」と呼ばれる有名な戦で、カルタゴ軍は、ローマ軍とぶつかります。圧倒的に兵士の数で負けているカルタゴ軍。しかも、自軍の中央をローマ軍に突破されるという、絶対絶命の危機に陥ります。

普通、中央突破されると「これはダメだ」と士気を失い、一気に崩れるものです。しかし、カルタゴ軍は粘りました。かろうじて残っている両翼の兵士たちが、ローマ軍の後ろに回り込んで反撃。ついには、ローマ軍に死傷者6万人のダメージを与え、大勝利を収めました。

どうしてカルタゴ軍の士気が落ちなかったのか。それは、戦が始まる前に、ハンニバルがこう言っていたからでした。「中央突破されるかもやけど、それも作戦のうちやから!」つまり、「登場したらコケますよ」的なフリを入れていたんです。

実際のところ、中央突破は大ピンチなわけです。本当に中央突破されてしまったとき、ハンニバルはきっと内心で「やっべ~」と焦ったことでしょう。しかし、みんなを動揺させるわけにはいかないので「あぶな~っ!もう少しで中央突破されるとこやったわ~」的な発言をし、ノーダメージ感を演出したと思うんです(おそらく副将的な人が「いや突破されてますよ!」とツッコんで、ドーン!とウケたはずです)

ハンニバる

このように、明らかに失敗していても「失敗してませんよ。ノーダメージですよ」という雰囲気を醸し出すことで、事態が好転することがあります。私はこの行いを「ハンニバる」と名付けたいと思います。

たとえば、先生のことを「お母さん!」と呼んでしまったとき。普通なら恥ずかしさで憤死する場面ですが、「あぶな~。もうちょっとでお母さんって呼ぶとこやったわ」とハンニバれば、おそらく何とかなります。

また、テストで100点満点中20点をとってしまったとき。「よかったー。もうちょっとで赤点とるとこやったわー」とハンニバっとけば、追試をまぬがれる可能性があります。

「天才バカボン」や「おそ松くん」で知られる漫画家の赤塚不二夫さんも、エリートハンニバラーでした。こんな話があります。

赤塚不二夫さんのハンニバり

「天才バカボン」の原稿を書き上げた赤塚さん。ところが、編集者さんがタクシーの中に原稿を置き忘れて、失くしてしまいました。原稿の締め切りは翌日。バカボンパパでもヤバいと分かるくらいの大ピンチです。

青ざめる編集者さん。しかし、赤塚さんは怒りませんでした。それどころか「まだ時間があるから呑みにいこう」と編集者さんを飲み屋へ誘いました。

そして、呑んで終わって、家に戻ると、たった数時間のうちにバババッ!と原稿を書き上げて、編集者さんに渡してこう言ったそうです。

「2度目だから、もっとうまく描けたよ」

すごい気遣いです。原稿を無くされてもノーダメージどころか、むしろ無くして良かったよと言い切るなんて、漢気に溢れすぎています。究極のハンニバりだと思います。

以上、ハンニバるを極めると「これでいいのだ」になることが分かりました(笑)

参考文献)

西沢泰生著「コーヒーと楽しむ心がほんのり明るくなる50の物語」PHP研究所、2021年.

西沢泰生著「コーヒーと楽しむ心が「ホッと」温まる50の物語」PHP文庫、2018年.

ITmediaビジネスオンライン、クイズ王のすごい考え方 原稿を編集者になくされた赤塚不二夫のひとこと https://www.itmedia.co.jp/makoto/articles/1212/31/news003.html

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