「1か所を100回見るほうが才能」ものの見方について考えさせられるエピソードたち

コラムの第72回。

「100か所を見に行くより、1か所を100回見るほうが才能」

この素敵なフレーズを生み出したのは、大和絵師のお仕事をされている山口晃さんという方です。

一か所を100回見るってどういうことやねん。含蓄ありそうな文章に、思わず100度見してしました。

山口さんは「室井滋のオシゴト探検 玄人ですもの」という本の中で、こんな風におっしゃっています。

家からここまでの100メートルの間に、毎日どれだけのことを発見できるか。

同じものを見ることで”見る深さ”を変える訓練をしていて、それが絵描きとして大事な才能だと思う。

なるほど。深けぇ~。

プロの画家になると、同じものを見ていても、どうやら「見る深さ」なるものが違ってくるそうです。そして、見る深さを変えることこそが、大事なのだと。

「見る深さ」のトレーニングのために一か所を100回もみるのですね。深いなぁ。

「まっ、狭い範囲で生きている人間の負け惜しみでございますが。」

山口さんは偉ぶることなく、どこまでも謙虚に絵描きの見る世界を伝えてくれました。

器もでけぇ~。

人間もできてんのかい。非の打ちどころがありません。

さて、「レベルが違いすぎる」と怒られるかもしれませんが、私もちょっと山口さんみたいなところがあります。

意識的に見る深さを変えるというより、何かの拍子に、ものの見方が少しだけ変わる、という経験なのですが。

ちょっとした見方の変化なのに、印象がガラッと変わるもんだなぁ、とビックリすることがあるんです。

今回は、ものの見方に関するエピソードを紹介していきます。

一眼レフが切り取る世界

たとえば、初めて一眼レフを買ったとき。あれは衝撃でした。

素人まるだしで恐縮ですが、一眼レフを手に入れると、とにかく何でもボカして撮りたくなるんですよね。

落ちてる石ころにピントを合わして、後ろの家をボカしてみたり。

道に咲く花にピントを合わして、後ろの草をぼかしてみたり。

ぼかして写真をとるようになると、一枚の写真の中で、ピントが合ってる主役と、ボケてる脇役たちに別れるので、肉眼でみるより主役がハッキリします。

さっきまで単なる石ころだったのに、急に石が「主役ですけど?」の顔をするようになります。哀愁ただよわせてきます。

誰に蹴られてここまで転がってきたの?きみはどこにいくの?なんだか問いかけたくなります。

すると、不思議なもので、カメラを持っていないときでも、無性に石や花が気になり出すんですよね。

「あれ? こんなに花ってキレイやったっけ」
「あれ? こんなに空って青かったっけ」
「あれ? 世界ってこんなに輝いてたっけ」

肉眼のF値が小さくなったようなピント感。今日初めて世界とコンニチハしたような新鮮さ。地球に生まれてよかったー!って、ガッツポーズしたくなりました。

それくらい、ものの見方が劇的に変わったんです。一眼レフって、すごいなぁと思いました。

漫画家の父を持つということ

見方が変わる、でいうと、水木しげるさん・赤塚不二夫さん・手塚治虫さんの娘三人が対談していた本「ゲゲゲの娘、レレレの娘、らららの娘」に面白い話があります。

誰もが知る偉大な父を持つって、どんな気持ちなんでしょう。やっぱり「凄いなぁ!」と思ってたりするのでしょうか。しかし、娘さんたちによると、意外にも「元気なうちは父に興味ない」そうです。

たとえば、水木しげるさんの娘さんは、手塚漫画の大ファンで、「お父ちゃんの漫画には未来がない。手塚漫画には未来がある」と言って、水木しげるさんをキレさせたらしいです(笑)

たしかに、水木しげるさんの作品には救いがないときが多いかもしれません。「総員玉砕せよ!」とか。子供が読んだら暗い気持ちになるかも。いい作品なんですけどねー。

しかし、興味がなかった娘さんも、父が亡くなると、気持ちがガラッと変わるそうです。

それまでは父と会話もない。作品についても「これは面白い、これはつまらない」って感覚で読んでいた。なのに、父が亡くなると、作品を必死に読み返すようになる。

作品の中にいる父親を探すのだそうです。

すると、漫画の中に「必死になって生きている父」が見つかる。つまらないと思っていた作品にも父の葛藤が見える。苦しかった時期の手塚作品を読むと「読者に媚びてるなー」と思えてくる。

そうやって、「負けてらんないな」ってメッセージをもらうらしいです。

漫画の中に父が生きている。素敵なエピソードだなぁと思いました。

ジョブズをやり込めた男

ものの見方が違うなあと感心させられる人はたくさんいますが、やっぱりスティーブ・ジョブズさんは偉大です。

初代iPodが出てきたときの「1000曲をポケットに」は、短い言葉でハートを鷲掴みにされました。

すげぇー!

以来、ほしい!ほしい!と思い続け、お金をためて、ヤマダ電機さんで黄色いiPod nanoを買いました。あの日のワクワクは、いまでも忘れられません。

そんな「短くてキャッチー」なプレゼンで有名なジョブズさんですが、そうでもなかった時期があると聞いて、驚いたことがあります。

ある会議で、30秒のCMをどうするかを話し合っていたときのこと。ジョブズさんにはどうしても伝えたいことがあったんでしょう。

「あれを入れろ!これを入れろ!」

と4個も5個もメッセージを詰め込むように指示したそうです。いまのジョブズさんからは考えられませんが、そういう時期もあったのですね。

ここで凄かったのが、会議に参加していたリー・クロウという男です。

おもむろに自分のメモ帳をとりだし、ビリッと破ります。その紙をくるくる丸めて、こう言いました。

「スティーブ、キャッチしてくれ」

リーさんは、紙くずを一つだけ投げました。パッとキャッチするジョブズさん。リーさんは言いました。

「これがいい広告だ」

そして、次は5個の紙くずを一斉に投げました。カサカサカサ…。ジョブズさんはキャッチできません。床に落ちていく紙くずたち。

「これが悪い広告だ」

一度にたくさんのメッセージを投げかけても、見ている人は一つもキャッチできない。リーさんはキャッチボールに上手いこと例えて、ジョブズさんに分からせたのです。

結局、高田純次さんが最強

ジョブズもリーも凄いですが、最強はジュンジ。高田純次さんだと思います。高田さんくらい肩の力を抜いて生きたいものです。あの角度の「ものの見方」を身に付けたい。

ある番組で「散歩のときに心がけていることは?」と聞かれた高田さん。こう回答していました。

「右足、左足と交互に出すこと」

さすがです。私も将来、もしインタビューで「ものごとを見るときに気を付けていることは?」ときかれたら「右目と左目で同時に見ることです」と答えようと思いました。

参考文献)

室井滋 著「室井滋のオシゴト探検 玄人ですもの」中央公論新社

手塚るみ子、赤塚りえ子、水木悦子 著「ゲゲゲの娘、レレレの娘、らららの娘」文芸春秋

西沢泰生著「コーヒーと楽しむ心がほんのり明るくなる50の物語」PHP研究所

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