ひとり電車旅の過ごし方

コラムの第89回。

電車に乗って一人旅をするのが好きです。といっても、車両や線路が好きなわけではありません。電車という閉塞された空間に長時間とじこめられ、左右の乗客に気を遣いながら、窮屈な思いをするのが好きなのです。

電車の中という制約が多い環境は、退屈との闘いです。いかに上手に退屈せず過ごせるかを考えだすと、さまざまなアイデアが浮かびます。そこに至上の喜びを感じます。

昨日、人に会う用事があり、広島県に日帰りで行ってきました。往復10時間の電車の旅でした。電車の中でどうやって暇をつぶそうか。考えるだけでゾクゾクしました。

電車に乗り込み、席を確保したら、まず取り出すのはKindleです。読む本も当然きめています。又吉直樹さんのエッセイ「月と散文」です。

この中に「覗き穴から見る配達員」という話があります。もともと面白いなぁと思っていた作品なのですが、先日読んだパンサー向井さんの「向井と裏方」という本の中で、この「覗き穴から見る配達員」のくだりがありました。向井さんがすごく褒めていました。嬉しくなり、また読みたくなりました。

この作品は、何てことない日常を描いています。宅配サービスで食事を頼む又吉さん。玄関前に置き配してもらうのですが、玄関ドアの覗き穴にはりついて、配達員の様子を観察しようとします。自分でも不気味だと思っているのに、この観察行為がやめられない。

又吉さんは、要領の悪い配達員を見ながら、心の中で「なにしてんねん」とつぶやきます。いや、又吉さんの方こそ「なにしてんねん」です。配達員は、商品の写真を撮るのに手間とったり、一度エレベーターに乗ったのに引き返してきたりします。その様子を見ながら、観察者としての又吉さんは、いちいち心の中でツッコんでいきます。その心の動きが面白いです。

言ってしまえば、家にいるだけの平凡な一日です。それが、又吉さんのフィルターを通してみると素敵なエッセイになるなんて、すごいなぁと思います。まるでラジオのフリートークを聞いているようで、引きこまれました。

まだまだ電車の時間は続きます。

本に飽きたら、次は映画です。この日のために、Amazonプライムビデオで映画をダウンロードしていおきました。せっかくの旅に見る映画なのですから、絶対に外したくありません。Amazonでおすすめされていた「シックスセンス」を選びました。初めて見ました。

めちゃくちゃ面白かった。

お前まだ見たこと無かったんかい、という声が聞こえてきそうです。超有名ですもんね。すみません、今まで映画を通ってこなかったもので。初めて見るシックスセンスの破壊力はとにかく凄まじいものでした。霊が見える少年の自立の物語かと思わせておいて、ラスト10分で大どんでん返し。電車の中で叫びそうになりました。

あとダイハードとTRICKもダウンロードしてあるのですが、シックスセンスで大満足してしまい、映画をもう一本見る気にはなれません。そこで選んだのはラジオ。Spotifyで「佐久間宜之のオールナイトニッポン0」の過去回を聞きました。

そしたら「どの映画の続編が見たい?」という話の流れの中で、佐久間さんがまさかの「シックスセンスの続編が見たい!」と言うではありませんか。えーっ、私さっき見たばかりです。なんという偶然。こういう偶然に出くわすと嬉しくなりますね。

そうこうしているうちに、広島県に入っていることに気づきました。あっという間の広島。時間が経つのが早いなぁと思いました。

あぁ、この瞬間。この瞬間が一番気持ちいい。

そう、この瞬間を味わうために、電車の中で窮屈に過ごしているのです。Kindleで何百冊も本を持ち運んで、AmazonPrimeで好きな映画見て、Spotifyで過去のラジオ聞いて、その感想をブログに書こうと思ってGoogle Keepにメモをしている。充電器も二つ持ち歩いている。10時間だってへっちゃら。あまりにハイテクすぎやしませんか。

大学生のときに青春18切符で旅したころは、退屈でたまりませんでした。それが今や、電車という窮屈で本来退屈な空間が、たのしいだけの場所になっている。全部、技術の進歩です。

あぁ、なんて素晴らしいんでしょう。

私は技術の進歩するスピードの速さを存分に味わいがために、電車にのり、あえて窮屈な場所に身を置きたいのです。なにしてんねんですし、自分でも変だと思うのですが、やめられません。

気持ちいいなぁ。

引き続きSpotifyで佐久間さんのラジオを聞いていると、窓の外に変なものが見えました。それは山間の中に密集した集落でした。見た目は普通の民家なのですが、みんな屋根瓦が赤いのです。ただ赤いだけではありません。ビカビカと艶があって、おまけにシャチホコまで付いています。すごく気合が入っている。

もしかして、ここはカープファンの集落なんじゃないかと思いました。だって赤いし。調べてみると違いました。石州瓦という、広島の名産の瓦のようです。それにしても立派なものです。すごいなぁ。

車窓を見ていると、別のものが気になりました。それはマツキヨ的な風貌のドラッグストアなのですが、看板にデカデカと「ディック」と書いてありました。たぶんディックという名前のお店なのでしょう。でも、ディックって、英語でいうと男性器って意味です。これ欧米人からどう見えているんだろう?と考えると、おもしろいなぁと思いました。

他には、古びた工場みたいなのもあって面白かったですし、お酒の名前が書いてある煙突がたくさんあるのも気になりました。だんだん車窓から目が離せなくなっていきます。あれ?窓の外みるのって、案外面白い?

技術の進歩もいいけど、その土地にしかないレアな風景をみるのが、旅の醍醐味なのかもしれないですね。

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