ミイラになれなかったミイラ取り

コラムの第90回。

「ミイラ取りがミイラになった」という例えがあります。ミイラを奪うはずだったのに、逆に自分がミイラになってしまうなんて不本意だという意味ですが、はたして本当に不本意なのでしょうか。ミイラになってみたいミイラ取りも、中にはいるのではないかと思うのです。

中学生だったとき、学級委員をしていたことがありました。学級委員はいわばクラスの代表。県で言えば知事、国で言えば総理くらい偉い役職ですが、私はこの学級委員という肩書が好きではありませんでした。肩書から得られる「偉い人間っぽさ」はには捨てがたい魅力を感じていたものの、どうしても嫌な仕事があったのです。

うちの中学には田舎にありがちな不良グループがいて、わがクラスにも数人のやんちゃな生徒がいました。人を傷つけることはしない人達でした。しかし、規則に縛られるのが嫌いだったようで、よく授業を抜けていました。

「こんな授業受けてられるかよ!」ドアをガッシャーン!みたいなドラマみたいなことはなく、不良たちは事を荒立てないように、サッと忍者のようにいなくなるタイプでした。害がないので、私たちも先生も「あいつらまた居なくなったな」くらいに受け止めていました。

ところが、美術の時間に事件は起きました。美術はいつも移動教室でした。前の授業が終わると、10分の休み時間の間にトイレをすませ、荷物を持って美術室に移動しなければなりません。美術室まではちょっとした距離があります。頑張らないと始業までに間に合わない。

不良たちが間に合うはずもありません。すると、美術の先生が言いました。「学級委員、あいつらを呼んできてくれ」気軽に頼んでくれていますが、この先生なんてこと言うんだと思いました。私がひとり授業を抜けて校内にいる彼らを探し、「授業に来て」と頼んでこいと言うのです。

いやいや。リスク高すぎです。そもそも授業に行きたくないから来ないのです。もし美術の授業がめちゃくちゃ面白かったら不良だって喜んでくるはず。面白くないから来ないのです。それならば先生が呼びに行くのが道理でしょう。なぜ私が尻拭いをしなければならないのでしょう。それに素直に不良が来てくれるとも思えません。私が行って返り討ちにあったらどうしてくれるのでしょうか。

しかし、先生に対して強く出ることができない私は、仕方がないので「あ、分かりまし・・・た」と言って教室を出るしかありません。なんで私がと思いつつ、教室にいるであろう彼らを探しにいきました。

ガラガラッ。教室の扉を開けると、3人の不良グループがいました。え?なにしにきたの?という顔でこっちを見ています。帰りたい。震える声で言いました。

「あのー・・・。先生が呼んでるから、申し訳ないけど、移動してくれません?」

お互いの顔を見合わせる不良たち。私の心臓はバクバクです。中学生活終わったかも。すると不良たちは意外にも「ごめんな、いくわ」と言って支度を始めました。私に迷惑をかけてしまって申し訳ないと思ったようです。いい奴で助かった。

こうして九死に一生を得たのですが、それからというもの、味をしめた美術教師は、毎回のように私を使いに出し、不良を呼びに行かせました。そのたびに私は不良に頼みこみ、不良も渋々といった感じで来てくれました。不良たちの良心だけが頼りの、綱渡りだと感じました。

美術だけじゃありません。技術も。音楽も。理科の実験も。不良たちが現れないと分かると、先生は私を使いに出すようになりました。教師の間で「あいつを呼びに行かせるといい」という噂にでもなったのでしょう。

勘弁してください。不良を呼びにいくたび、いつかこっぴどく怒られるんじゃないかという恐怖があるんです。こんなに辛いならいっそ、私も不良になりたいと思いました。もし私が呼びにいったきり、不良に染まって帰ってこなくなったらどうなるだろう。そんな妄想をしました。

「あれ?あいつ呼びにいったきり帰ってこないぞ」「もしかして不良にやられたんじゃないか」「かわいそうなことをしてしまった。助けにいかないと」ガラガラッ「なっ!おまえまで不良に染まってしまったのか!」「すまない・・・私が嫌な役回りを押し付けたばっかりに。許してくれ」みたいな展開を妄想し続けました。

はたして、不良に染まる勇気もなく1年が過ぎ、クラスがえになり、このイベントは終了しました。それまで不良たちは相変わらず遅刻を続けました。どこまでも性格がいい奴らだったようで、怒られることはありませんでしたが、一度は私も不良というミイラになってみたかったな、と惜しいことをした気がします。

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