うどんにおでんは常識?

「えっ?嘘でしょ」

コンビニからの帰り道。当時大学生だった私は、買ったばかりのおでんを食べようとする友人を、ギョッとした顔で見つめていました。その友人がおでんにカラシをつけていたからです。たまらず尋ねました。

「味噌じゃなくて?」
「味噌?」

友人は眉を寄せました。そして、何を言っているんだこいつは、とでも言いたげな表情で「ふつう味噌はつけないでしょ」と返してきたのです。衝撃を受けました。だって、おでんには味噌だからです。

「うどん屋さんに行ったらあるやん。おでんと味噌」
「は?うどん屋におでん?いやいや。無いでしょ」

そこでようやく、私の田舎が少しおかしいことが発覚したのです。

小学生のころ、外食といえばだいたいうどん屋でした。私のルーティーンは、まず店に入ったら座敷につき、店員さんに「ざるうどん」を注文することから始まります。ざるうどんが運ばれてくるまでに5分~10分。待ちきれません。すぐさまレジ前のおでんコーナーに向かいます。

そう、うどん屋さんには、当たり前のようにおでんコーナーがあったのです。

選ぶのはたいてい卵とコンニャクでした。串に刺さった状態でおでん汁に浸かっているそれらを、ひょいっと拾い上げて皿に盛り、横の壺から味噌をすくってひと回し。それから、冷水器でお水を汲んで、座敷に戻ります。ゆで卵の黄身のパサパサとした食感は、甘い味噌と絡めるとたいへん美味でした。

行きつけのうどん屋さんは何軒もありました。どのお店にも決まって「おでん+味噌」のセットが置いてありました。きっと、そういう風習の地域だったのだと思います。

その後、大学生になり、東京で暮らすようになりました。心の中では東京人を気取っていましたが、ときどき冒頭のような田舎っぺが丸出しになってしまい、恥ずかしい思いをしたものです。

全国的に見て、うどん屋さんにはおでんを置くシステムは稀であり、おでんに味噌をつける風習もない。そんな常識を少しずつ身に付けながら歳を重ねてきました。

常識を学ぶ代償として、たくさんの恥をかきました。今でもうどん屋さんにいくと、そんな記憶が掘り起こされます。

この間、4歳の息子を連れて、実家の近くのうどん屋さんに行ってきました。入口に暖簾が掛かっていて、木造で年季の入った、雰囲気のあるお店でした。

初めて訪れる店でしたが、レジの前にはちゃんとおでんと味噌がありました。おでんがあると落ち着くのは、私の奥底に古き常識が刷り込まれているからなのでしょうね。

そこはセルフのお店でした。お昼どきだったので店内には10人ほどの列ができています。最後尾に並び、壁にかけてある木札のメニューを眺めました。

かけうどん。ぶっかけうどん。温玉ぶっかけうどん・・・。定番のうどんが揃っています。

初めてだからシンプルにぶっかけ冷かな。いや、温玉ぶっかけも捨てがたいな。でも、息子と一緒にかけを分けるのもありだな。

そんなことを考えていると、あっという間に列は進み、自分たちが注文する番になりました。あっ、まずい。息子の希望を聞いていなかった。

「〇〇ちゃん(息子の名前)は何にする?」

慌て気味にたずねると、息子はそっと耳打ちしてきました。

「たまごとまぐろにする」

ん?

たまご?

まぐろ?

・・・いやいや、お寿司屋さんちゃうから!(笑)

うどんの名前がくるとばかり思っていたので、不意をつかれて、店員さんの前で大笑いしてしまいました。

きっとメニューの木札が寿司屋に見えたのでしょうね。かわいい勘違いです。ここはお寿司屋さんではないことを伝えると、息子はモジモジしながら「そっか〜」と呟きました。

間違ってしまって恥ずかしかったのでしょう。息子もまた、常識を学んでいる途中なのですね。

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