伊坂幸太郎さんの「チルドレン」を読んで

伊坂幸太郎さんの「チルドレン」を読みました。2004年上期の直木賞候補にもなったこの作品。水色の表紙に、フンワリとしたタッチで、二人の少年と一匹の犬が描かれています。なんてキュートな表紙なんだろう。胸がキュンとして、思わず手に取った一冊です。

本作品は短編集です。陣内という、無鉄砲で、おバカで、とにかく突拍子もない男が軸となっていて、彼の周りで起きる騒動が描かれています。短編集だけど一冊の小説としても読める不思議な本です。とにかく陣内くんの馬鹿馬鹿しい行動がおもしろい。でも、だんだんと「すごいな」と思えてきて、最後には「馬鹿馬鹿しいって誉め言葉なんだな」という感情すら芽生えます。

以下では、各短編のあらすじと、私の感想を紹介したいと思います。

バンク

あらすじ:
「不条理に立ち向かうこと」が基本方針の大学生・陣内と、その友人の鴨居は、銀行強盗に遭遇し、人質にされてしまう。やめとけばいいのに強盗にも立ち向かってしまう変な陣内。だが、強盗の方も変だった。なぜか人質にお面を被らせたりするのだ。「陣内の奇行」と「お面の謎解き」を同時に楽しむお話。

伊坂幸太郎著「チルドレン」講談社(2004年)p.5-p.58より

感想:
銀行強盗で人質にされる。それだけだと設定として珍しくないのですが、そこに「お面」というスパイスが仕込まれています。犯人が顔を隠すのは当然として、なぜ人質まで顔を隠さなければならないのか。つまり、人質が顔を隠さないと不都合な理由が犯人側にあるわけで、この謎が明らかになっていくのがすごく面白い。私は勘が悪いので種明かししてもらうまで分かりませんでした(笑) ですが、きっと鋭い人ならきっと途中で分かるでしょう。適度なレベルのミステリーだと思います。

謎解きはもちろん面白いのですが、この短編が素晴らしいのは、むしろキャラクターの方だと思いました。とにかく陣内と鴨居のやりとりが可笑しいんです。陣内は、立ち向かうが基本方針、という人物として描かれていて、役所仕事とか、強盗とか、本当にいろんなことに反発します。反発するやつって、見ていて面白いですよね。

さらに噴き出しそうになったのは、強盗に立ち向かって撃たれそうになるシーンです。普通なら死の危機に瀕した陣内を心配するところですが、相棒の鴨居は心配しません。「むしろ重症にならない程度に撃たれた方が勉強になるのではないか」と心の中で期待しているんです。いや、お前仲間ちゃうんかい(笑) 友達なのに陣内の扱いが雑で笑ってしまいました。

チルドレン

あらすじ:
犯罪に手を染めた少年少女の話相手となり、更生への手助けをする「家庭裁判官」である武藤は、ある万引き少年とその父親を担当することになる。その少年は父親を「あの人」と呼び、父親の方は何を聞かれても「分からない」と答える。説明のつかないチグハグさ。彼らの背後に隠された事件を推理するお話。

伊坂幸太郎著「チルドレン」講談社(2004年)p.59-p.126より

感想:
主人公である武藤の視点で、非行少年たちを更生させるという、ある意味「奇跡」のような仕事が描かれています。家庭裁判官になじみが無かったので、特殊なお仕事の裏側を見られる、というのがまず面白いです。

そして本作品にもちゃんと陣内が登場してくれます。なんと武藤の先輩として。いやいや、陣内みたいな非常識なやつが家庭裁判官なんて出来るわけないじゃん、と思いながら読みました。期待を裏切らないですね。陣内はちゃんとヤラかしてくれます。こんなエピソードがありました。

路地裏で貧弱な少年が殴られていた。囲んでいるのは3人の不良少年。そこに通りがかった陣内は、ズカズカと近寄り、殴りかかった。貧弱な少年の方を。「え?」「え?」だれもが混乱する中、陣内は言い放つ。「俺が優勝! おまえら、さっさと帰って寝ろ」変質者である。そんな変質者から逃げるように不良少年たちは退散。結果として、陣内は場を収めることに成功したのだった。

すごくいいエピソードだなと思いました。ものごとを違う角度からみることの大切さを教えられているようです。陣内は馬鹿馬鹿しい行動ばかりなのですが、その奇行がかえって良いこともあって、少年たちから慕われていたりするんですよね。どんどん陣内のことが好きになっていきました。

あと本書のタイトルにもなっている「チルドレン」の意味がここで明かされます。これがめちゃくちゃセンスのいいタイトルなんですよ。非行少年の歪みは歳と共に解消される、だから更生するって楽観的に見ていい、というメッセージがに込められていて、そのくだりを読んだときは鳥肌が立ちました。

付け加えるなら、文章表現ですごくいいなと思ったのがあります。武藤が街ブラをしているシーンです。引用すると、’’’僕は大した用事もなく街中をうろうろと歩き回り、たまたま入った洋服屋で髭の店員につかまり、それほど気に入りもしなかった秋用のジャケットを買ってしまった帰りだった。’’’と書いてありました。これ、何気ないシーンでサラッと書いてあるのですが、たったこれだけで武藤の性格が分かってしまいます。ああ、武藤は人の意見に流されやすいタイプなんだなと。そんな人が陣内という強烈な個性の横にいたら、きっと陣内色に染まるんだろうなと予感させられます。無駄がない、なんてすごい文章なんでしょう。

レトリーバー

あらすじ:
片思い中の女性に振られた陣内は、こんな可哀そうな自分に寄り添うために世界が停止した、と思い込む話。ただの妄想、と思いきや、本当に周りにいる人々の時間が静止したかのような状況が起こっていた。なぜ世界が停止して見えたのかを推理するミステリー。

伊坂幸太郎著「チルドレン」講談社(2004年)p.127-p.184より

感想:
陣内の大学時代のお話です。時系列で言うと、第一話の「バンク」からしばらく経ったころですね。本作に登場するのは、陣内と鴨居(名前だけ登場)、バンクで出てきた盲目の少年・永瀬と盲導犬のベス、それから、永瀬と親しくしている優子です。彼らは銀行強盗の事件を経て仲良しグループになったようです。物語は優子の視点で語られます。

小説の王道といえば、登場人物が不幸になり、その不幸を克服することです。ここでは陣内が「意中の人に振られる」という不幸に陥ります。あの無敵の陣内が振られて落ち込むのです。陣内は立ち直るために「バカ話」を二時間します。二時間も経っているのに、周りの人間がずっと同じ場所にいるじゃん!というところからミステリーが始まるのですが、私はミステリーよりも「バカ話」を二時間もした陣内が心の動きが面白いなと思いました。

伊坂さんは陣内のこの行動を「人は落ち込んだとき、自分の得意な行動を繰り返して、立ち直ろうとする」と説明していました。なるほどと思いました。得意な行動が「バカ話」というのが、なんとも陣内らしくて可愛いですね。まあ、可愛いだけじゃなくて、八つ当たりまがいに近くの女子高生を説教したりもするのですが。

ところで、陣内のおもしろさの一端は、暴論なのになぜか説得力のあることを言うところにあると思います。こんな場面がありました。ろくに話したこともないレンタルビデオ屋の店員に告白すると意気込む陣内を、優子たちは止めようとするのですが…。

「これは絶対にうまくいく片想いなんだよ」
「世の中に、『絶対』と断言できることは何ひとつないって、うちの大学教授が言ってたけど」わたしはとりあえず、識者の言葉で説得を試みた。
「『絶対』と言い切れることがひとつもないなんて、生きている意味がないだろ」
「なるほど」

これには笑っちゃいました。そんな論法ありかよ~って。「絶対と言い切れることがひとつもないなんて生きている意味がない」なんて、そんなカッコイイこと言われたら、誰だって黙っちゃいます。

チルドレンII

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イン

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