僕のマリさん著「常識のない喫茶店」の感想

学生時代にバイトしていた居酒屋で、俳優の柳葉敏郎さんにそっくりなお客様がいらしたことがありました。

もちろん他のお客様と同じように接客させていただきましたが、一歩厨房に戻ると大騒ぎ。

「ギバちゃんに似てない!?」

「ほんとだ!」

「似てる!似てる!」

飲食店のスタッフは変わったお客様が大好物なのです。

我々はお客様をよく観察していますし、少しでも変わった行動をしようものならすぐにあだ名をつけます。

飲食業ははっきり言ってキツイ。

気分を上げたい。

だからこそ、笑えるネタに飢えるのだと思います。

柳葉さん似のお客様が来店して1時間ほど経った後、バイトリーダーが厨房に飛び込んできました。

「聞いてー!」あらゆる厨房スタッフが振り返ります。

「ギバちゃん似の人、仲間から『室井さん』って呼ばれてたー!」

そのお客さんが我々の間で『室井さん』と呼ばれるようになったのは言うまでもありません。

スタッフの減らず口、封鎖できません(笑)

前置きが長くなりましたが、僕のマリさん(以下、マリさん)が書かれた「常識のない喫茶店」を読みました。

本書は、マリさんが実際に働いていた喫茶店での体験談をユーモラスにつづったエッセイです。

すごく面白かったです。

「あるある!」と共感できる部分がたくさんありまし、文章がスッと入ってきて読みやすいんです。

とにかく笑えて、楽しい気持ちになれます。

私のつたない文章で恐縮ですが、感想をお伝えさせていただきます。

概要

お客様はみな平等に神様である。そんな幻想をぶっ壊してくれる喫茶店があった。マナーの悪いお客には「あんた出禁!」と店員が命じてよい。働いている人が嫌な気持ちになる人はお客様ではない。そんな常識はないが良識のある喫茶店で働くマリさんが、お店で出会った面白い人々(たいていはとんでもない人々)とのエピソードを紹介する、抱腹絶倒のエッセイ。

僕のマリ著「常識のない喫茶店」柏書房(2021年)

感想

接客業の楽しみの一つは、間違いなく「あだ名を付けること」です。

少なくとも私はそう思っているのですが、この命名作業が簡単ではありません。絶妙に笑えるあだ名をつけられる人を尊敬します。

本作に登場するあだ名で私が気に入っているのは「無限アメリカン」。

ただでさえ薄いアメリカンコーヒーにお冷を継ぎだし、薄めて薄めて、少しでも長居しようと粘るおばさんが居たそうです。

ついたあだ名が「無限アメリカン」。

ふふふ。アメリカンに無限がつくと「せこさ」を表す単語になるのですね。

中には良い意味を持つあだ名も登場していて、特に「神セブン」は素敵だなと思いました。

マリさんは、言葉遣いや所作が丁寧で、お冷を注ぐだけでも合唱をしてくれる中年男性のお客さんを密かに”推して”いるそうです。

ある日、店の近くのセブンイレブンでそのお客さんが店員さんとして働いているところに遭遇したマリさん。

みると、すべてのお客さんに神対応をしている。そこから「神セブン」と名づけたとか。

巧いなと思いました。

本当にたくさんのあだ名が登場します。それはつまり、あだ名をつけるに足るエピソードがあるということ。

それは不快なことだったり、推したいくらい感激することだったりと様々なのですが、あだ名の数だけ貴重な体験をし、店員同士で楽しく共有してきたのが伝わってきて、羨ましくなりました。

あと好きだったのは、マスターとお客さんがバトルする場面です。

混雑する日に、広い席を占領して漫画を読み続ける迷惑なおじいさんが居て、それに怒ったマスターと口論が始まります。

そんな光景を見ていたマリさんが、わたしは不謹慎の化身なので正直ワクワクしていた、と書いていて笑ってしまいました。

分かるけど。他人事やな~。

マリさんは、店員である前にひとりの人間なんだからお互い気持ちよくいこうよ、という信念で動いていらっしゃいます。

それって実行するのはすごく大変なことだと思うんです。ひたすら真っすぐで、素直な人じゃないとできません。

憧れます。

嫌なことに対してズバッと無視できる強さはぜひ見習いたい。

美味しいパンを買ってきてくれる松井さんに対し「こういう女性になりたいと思う」と憧れの気持ちを表明する率直さはもっと見習いたい。

素直さって大事だなって再認識させていただきました。

余談ですが、半分まで読んだところで、あまりに面白すぎて、家で読むのがもったいなく感じられ、ページをめくるのをやめました。

この本は喫茶店で読みたい!と思ったのです。わざわざスタバに入って、コーヒーを片手に読むという、意識の高いことをしてしまいました。

最高に楽しい読書でした。

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