宿野かほるさん著「ルビンの壺が割れた」の感想

宿野かほるさんの小説「ルビンの壺が割れた」を読みました。

きっかけ

ヨビノリたくみさんと斎藤明里さんがMCをされているYoutubeチャンネル『ほんタメ』で、おすすめのミステリー小説として紹介されていたのが『ルビンの壺が割れた」でした。

『どんでん返しがすごいミステリー◯選』のような括りだったと思います。おもしろそうだ!と思って、アマゾンのほしいものリストに追加しました。

どんでん返し、好きなんですよね。あまり小説を読んできていないからか、読解力がまるで無いので、どんでん返しみたいな構造的に分かりやすい面白さに惹かれやすいんだと思います。

推理力もぜんぜん無いので、いつも簡単にオチで騙されます(笑)その騙されるのが気持ちいいんですけれども。

これまで読んできた中で、何にどんでん返されたかなあと思い返してみると、東野圭吾さんの『秘密』のラストが印象に残っています。

妻と娘がバスの転落事故に遭遇し、妻の肉体は亡くなるのですが、娘の体に妻の意識が宿るというお話です。

娘の意識は深い眠りにつきます(覚めるかどうかは秘密にしておきます)。

思春期の娘の体を借りた妻との新生活。お互い夫婦であろうとするのですが、だんだん心がすれ違っていき、ラストで一気に切ないどんでん返し。

大好きな作品の一つです。

脱線しました。今回は『ルビンの壺が割れた』でした。一説によると、本作は日本一のどんでん返しとのことで、かねてから読みたいと思っていました。

が、子育てに忙しくて、なかなか小説を読む時間がとれず(小説は一気読みしたい派)、ずーっと読めなくて来てしまいました。

買おうと思っていた記憶すら忘却の彼方に旅立ってしばらくしたころ、ひざの怪我で入院することになりました。

「へぇ〜、院内に図書館があるんだ〜」

と散策していたら、文庫版の『ルビンの壺が割れた』を見つけ、「あっ!読みたい!」と衝動的に借りた次第です。

つまり無料で読んでます。作者の宿野さん、ごめんなさい。おもしろかったです。

あらすじ

28年前に別れた恋人のことが忘れられない男は、フェイスブックで偶然その人を発見し、メッセージを送った。なぜ自分の前から消えたのか。結婚を約束していたのに。相手を想いやる丁寧なメッセージの往復に心暖まるお話。かと思いきや大どんでん返しが待っている。

感想

途中もめっちゃ面白い

「大どんでん返しがすごい小説です」という触れ込みを信じて本作を読んだのですが、その評価は間違っていると気付きました。これは「途中もめっちゃ面白い」小説です。

もちろん大どんでん返しも凄かったのですが、半分くらい読んだ時点で「これはとんでもない小説を読んでいる!」という気持ちになりました。

続きが気になってページをめくる手が止まりません。

オチが強いという宣伝をしたことで「それって途中が退屈ってことなのでは?」と予想された方がいたとするならば、もったいなさすぎます。

心象がゴロゴロ変わる

なぜ途中が面白いのかというと、読者の心象がゴロゴロ変えられるからだと思います。

はじめは、どこぞのオッサンがフェイスブックを漁っていたら同級生のオバハンを見つけて懐かしくなったのだろう、と思って読むことになります。

1年経っても、2年経っても返信はありません。一方的にオッサンが送るメッセンジャーの文面が続きます。丁寧な言葉で綴られたオッサンのメールを読むだけです。

オッサン文体に慣れたころ、変化は唐突にやってきます。なんと返信がきます。

「やった!返信もらえた!」

って嬉しくなりました。読んでいる私が。なんと知らぬ間にオッサンに同化していたのです。きっと同じ感動を抱いた読者も多いはずです。

それからは交互にオッサンとオバサンが自分の心に乗り移ったかのような気持ちでメッセンジャーのやりとりを読んでいきます。メールを一往復するごとに、秘密が暴かれていきます。

ただのオバサンに思えていた相手が、実は恋仲だと分かったり(これ以上は伏せます)。秘密が明かされると、ただのオバサンのことが好きになります(読んでいる私が、です)。

こんなに心象がゴロゴロ変わるなんて、不思議なものです。

でもやっぱりどんでん返しが秀逸

さて、途中の面白さを語ってみましたが、どう考えても本作は後半30%に詰め込まれた『秘密の告白』が圧倒的です。それに触れないのは感想として気持ちが悪いですね。

でも触れるわけにはいきません。本作を読む前にオチで触れてしまうと、物語の見方が固定されてしまいますからね。ルビンの壺のように。

・・・。

全編ですます調

ところで、この物語には地の文がありません。

二人の男女のメールのやり取り(正しくはフェイスブックのメッセンジャー)だけで話が進んでいきます。書簡体小説というそうです。

中年男女のメールらしい『ですます調』の丁寧なやりとりが特徴的です。ですます調であることで、距離感を測り合うぎこちなさがうまく表現されています。

書簡体小説といえば以前、森見登美彦さんの『恋文の技術』を読んだことがあります。大学院生同士の文通をテーマにした物語だったので、である調のくだけた手紙でした。

同じ書簡体小説でも、である調とですます調では、受ける印象がぜんぜん違います。びっくりするほどに。「である」と「ですます」には大きな壁があるのです。

本作は書簡体であるからこそ、小説にもかかわらず、全文ですます調が成立します。

ですます調の小説なんて初めて読みました。ブロガーとしてこんなにありがたいことはないな、と思いました。『ですます調の巧い文章』を探すのに難儀していたからです。

自分でブログ記事を書くと、どうしても「ました。ました。ました」が続いて読みづらくなります。

である調なら「だった。した。なった」と変化が付けられるのに、ですます調になると難しい。

だれかお手本を見せてくれ!と叫びたくなっていました。だから「ルビンの壺が割れた」に出会えて、すごく嬉しいんです。

このルビンの壺が割れたは、ですます調の名文として、非常に貴重な資料です。もし、ですます調で悩むブロガーさんがいらっしゃれば、ぜひおすすめしたいです。

宿野かほる著「ルビンの壺が割れた」新潮社(2017年)

キーワード

ネタバレしない範囲でキーワードを書いておきます。といっても、本作は読者の心象がめまぐるしく変わるのが醍醐味なので、先にみると台無しになるキーワードが多すぎます。そういう台無しワードを除くと以下のようになります。めちゃ少ないですね。

水谷一馬、結城未帆子、フェイスブック、偶然見つける、27年振り、メッセンジャーのやりとり、書簡体小説、大学の演劇部、演出家と女優、新婦が現れない結婚式

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