松浦弥太郎さん著「エッセイストのように生きる」の感想

松浦弥太郎さんの「エッセイストのように生きる」を読みました。

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「孫の手みたいだな」という第一印象を持った本でした。

近所の大型書店、その一角にあるエッセイ・随筆コーナーにその本はありました。「エッセイストのように生きる」というタイトルに目を奪われました。かぐや姫でも挟まっていそうなくらい光って見えたのです。

ブログを書きはじめた私は、誰にも読まれないエッセイを、ネットの海に投稿し続けました。その数が100を超えたころ、ある二つの考えを持つようになりました。

ひとつは「発見」でした。エッセイを書いていると、心のモヤモヤが晴れ、メンタルが安定していくという発見です。

もうひとつは「悩み」でした。エッセイを書くことに費やした時間の長さを振り返ると、こんなことに時間を使っていていいのだろうか、もっと生産的な勉強をすべきだろうか、という思いに取り憑かれたのです。

今考えると、自分の中で結論は出ていたのだと思います。

このままエッセイを書き続けたい。エッセイを書くことで人生の充実感を得たい。だけど、自信がなかった。誰かに肯定してもらいたかったのです。

「きみはエッセイを書き続けていいんだよ」と。

だからこそ、本書が輝いて見えたのだと思います。いかにも背中を押してくれそうなタイトルでしたから。

本書を読み終えたとき、私は自信どころか確信を得た気分になりました。自分では掻けなかった背中のかゆみが取れたような爽快感もありました。この本は孫の手です。

エッセイを書いてみたい方、自分らしい生き方に悩まれている方に、ぜひおすすめしたい一冊です。

概要

『暮しの手帳』元編集長・松浦弥太郎さんが「エッセイを書くという生き方は良いものですよ」と語りかけてくる本。『エッセイを書くと精神の安定が得られる』という経験と『このように書くと魅力的なエッセイになる』という心得がつまったエッセイ指南書。

松浦弥太郎著「エッセイストのように生きる」光文社(2023年)

感想

人生をとりこぼさない生活

本書の中で、松浦さんは「エッセイを書くことは、秘密の告白である」と定義されています。この定義はとてもしっくりくるもので、よくぞ「秘密の告白」という言葉を選んでくれたと思いました。

どんどん続きが読みたくなる、魅力的なエッセイには、必ずといってよいほど著者の秘密が隠されています。

それは恥部という意味の秘密だけではなく、世界の理をひとつ発見したという秘密だったりします。私たちは「秘密の告白」を通して、著者のものの見方を理解し、心を動かされます。

さて、エッセイを書くことのエッセンスを凝縮すると「秘密の告白」になりますが、エッセイを書くという営みを、もう少し広く定義してみると、

「エッセイを書くとは、人生を編集することである」

となるのではないか、と思いました。これが本書を通して私が抱いた感想です。

エッセイを書くことは、ユーチューブのような動画を編集する作業に似ています。日々わたしたちが目にする光景が「素材」です。膨大な量の素材から、これはおもしろい、と思ったエピソードを切り取り、適切な解説(動画で言うテロップ)を添えて、800文字〜2000文字程度の短い文章にしたためる。

珍しい体験をしたときなどは、素材そのものでも面白いでしょう。ありふれた素材だとしても、ものごとを見る角度によっては、面白い切り口のエッセイになることもあります。テロップ(言葉選び)を工夫しても面白く読めます。

こうして5分程度で読める分量へと、人生を編集して作品に昇華することが、エッセイを書くということ、なのだと思いました。文章のユーチューバーと言ってもいいかもしれません。再生回数の多いエッセイには、秘密の告白が入っていることでしょう。

エッセイを「人生を編集すること」と例えたのには意味があります。それは、たいていの場合、素材というものは、編集しなければ見れたものではない、ということです。

言い換えると、自分の人生がしょうもない、と感じているならば、それはまだ素材を味わっているだけ。編集という調理を加えることで、いくらでも価値ある人生になる、と感じました。

それは自分の人生を積極的に肯定できる考え方です。まだまだ編集の余地があると考えるだけで、とっても嬉しい気分になります。素材が増えていっているんだなあと捉えると、生きているどの瞬間も、価値あることのように思えます。

きっと弥太郎さんも同じように感じていらっしゃるのではないかと思います。それは、以下の文章にあらわれています。

僕はこのなんてことのないメモが2〜3個増えるだけでも、日々の充実感が得られます。会食でも友人とのおしゃべりでも、散歩でも、メモがひとつ増えたらそれだけで「よかったなあ」と思えます。文字にして残すと安心して忘れることができるのも、メモのいいところです。(p.82)

メモが2〜3個増えるだけで充実感が得られる、という感覚が私は好きです。パッとみればゴミクズのようなメモかもしれませんが、ちゃんと編集すれば光るエピソードの種だ、と思ってみれば、メモだけでも充実感が得られるものです。弥太郎さんのメモに対する考え方に、たいへん共感しました。

人間の記憶容量は小さいので、素材を得たと思っても、どんどん忘れていってしまいます。もったいないなあと思います。本書に感化され、もっとメモを残そうと思いました(弥太郎さんはペンと手帳を持ち歩いているらしいので、私も真似をしてペンと手帳を買いました)。

メモを取り、適度に編集して、エッセンスを残していく。それは人生をとりこぼさない生活といえましょう。いいものですね。

エッセイ執筆の解体新書

本書は、エッセイを書く人の背中を押してくれるだけでなく、実践的な書き方のコツを教えてくれる指南本でもあります。

・伝えたいことは何個書いていいのか
・秘密の答えは書いていいのか
・文章は具体的に書くべきなのか
・情景描写はどのくらい細かく書くべきなのか
・わくわくする書き出しに見られる三つのパターンとはどんなものか
・誰に向けてエッセイを書くのか
・プロットはどうかくのか
・めくりたくなる◯◯◯とは何か
・エッセイは何文字にするべきか

などについて、弥太郎さんの考え方が詳しく書かれています。こんなに明け透けにエッセイの書き方を指導してくれる本にであったのは初めてでした。「えっ、そこまでバラしていいの?」とドキドキしたくらいです。ここまでエッセイを解剖してしまったら、それはもう解体新書です。

弥太郎さんのアドバイスを実践してみた

本書を読むとエッセイを書きたくなります。弥太郎さんの手口を真似した自分が、どれほど上達したのか試したくなるからです。

私は今日までに以下の四つのエッセイを書きました。弥太郎さんのエッセイと比べてしまうと、月とミドリガメくらいのレベルですが、自分では以前よりも上手く書けた実感がありました。

よろしければ、ご覧になっていただけると嬉しいです。

1作目:松子
手にできたマメをめぐるグリム童話のようなエピソード。

2作目:プレゼント攻撃
同じ病室の老人に腹を立て反撃したエピソード。

3作目:裸を見せる作戦
とある若い女性に裸を見せたエピソード。

4作目:神の一手
同じ病室の老人が「神の一手」で看護師さんを言いくるめたエピソード。

まとめ

エッセイを執筆することで得られる充実感、そして、エッセイを書くにあたって押さえておくべきポイントについて書かれた、絶妙なエッセイ指南書でした。

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