映画「すばらしい世界」の感想

役所広治さん主演の映画「すばらしい世界」の感想です。

あらすじ

殺人罪を犯して13年間服役していた初老の男・三上正男が、カタギ社会の生きづらさに心が折れ、ヤクザに戻りそうになりながらも、身元預かり人・小説家志望の男・スーパーの店長・ケースワーカーたちに支えられ、社会復帰をめざすお話。

感想

犯罪者は私達と違う人間なのか

この作品は、一度レールを外れた人間が社会に復帰する難しさ、を描いた映画でした。刑期を終えて出所した人たちは、その半数が五年以内に再犯してしまうそうです。それほど現代社会は排他的で、レールを外した人間に冷たく、生きづらいものになっています。果たして私達が生きているココは「すばらしい世界」と言えるのでしょうか。

役所広治さん演じる犯罪者・三上正男を見ていて、頭に浮かんだのは「犯罪を犯す人間と私達は、どこが違うのだろうか」という疑問でした。刑期を終えて出てきた人間を、私達が排除してしまっているのだとすれば、そこに正当性はあるのだろうかを考えたくなったのです。

結論は「そんなに違わない」と思いました。少なくとも三上正男さんを見る限り、戻ってきた人間を、社会から排除してしまうのは、正当ではなく、偏見が根付いてしまっていると思いました。

三上正男は、真っ直ぐな男でした。いじめを見過ごせない、正義感の強さを持っていました。チャーミングな男でもありました。教習所では「受験番号8番!」と刑務所が抜け切れない場面がユーモラスに描かれています。心優しい人物なのです。支えてあげたくなるような人間なのです。

ただし、短気で暴力的な部分もありました。罪の意識がなく、殺人を犯したことについても、被害者への謝意がまるでありません(しかしヤクザ同士の諍いで、しかも正当防衛だったので、それだけで三上が悪い人間とは思いませんでした)。オヤジ狩りを止めにいった場面では、チンピラ二人を脚立でぶん殴りながら、子どものように生き生きとした笑顔を魅せました。恐ろしかったです。

守ってあげたくなるチャーミングさと、簡単に暴力に身を任せてしまう短絡さ、を合わせもったデコボコした人間が、三上正男です。役所さんはこの難しい人物をよく演じられていたなあと思います。

そんな三上が私たちと違うかと言われると、いや、そこまで違わないんじゃないか、と思えます。たしかに暴力のコントロールについては、一線を超えているように見えますが、でも、理由なき暴力ではないのです。誰かを守るための暴力。そこに悪意はないのです。まったく別の人間というよりは、私たちのデコボコさを少しひどくしたような、連続的に繋がった存在に思えました。

だからこそ、三上に共感でき、社会復帰を応援する気持ちで観ることができました。

誰かと繋がりを持つ大切さ

レールを外れた人間が社会に帰属していくためには、何が必要になるのでしょうか。この映画は「人との繋がりが答えだ」と言っているように思います。監督は、三上の身元引受人に、このようなセリフを言わせていました。

大事なのは、誰かとつながりをもって、社会から孤立しないことです。

私はこの言葉に胸を打たれました。結局はそこなんだ、という思いです。社会福祉の制度だけでは行き届かないところが多いんだな、という気づきもありました。

たとえば、三上は持病の高血圧があり、早期の就職が難しいため、生活保護を受けることになりました。国が保障する「生きる権利」を行使して、最低限の金銭面の不安を取り払ったわけですね。

しかし、ただ飯を食い生活できるようになるだけでは、社会への復帰にはなりませんでした。三上は「自分は人の施しを受けている人間だ」と自己嫌悪に陥ります。ちゃんと仕事について、自分の力で生活を成り立たせたい、というのが人間がもつ素直な欲求であることが分かります。

けれども仕事をするハードルが高い。運転免許も無い。服役中に鍛えた裁縫の腕も生かせない。経歴を聞かれると答えられない。元犯罪者に世間は冷たく、三上は心が折れます。てっとり速くヤクザに戻ろうと考えてしまいます。そんな三上を救ったのが、人と人との繋がりでした。

三上をテレビ番組の食い物にするつもりで近寄ったツノダは、三上の真っ直ぐな人柄に感化され、彼の心の支えとなりました。六角精児さん演じるスーパーの店長も人が良く、いったんは万引きを疑いますが、疑惑が晴れてからは親友となります。

人の繋がりが、三上の暴力衝動を抑えるカギとなったのです。それは私にとって驚きでした。犯罪を犯した人間が社会に復帰するということは、まっさらに心を入れ替えて、更正することだと思っていたからです。でもそうではなかったのです。

人格が作り変えられるような再生は行われないのです。その代わり、犯罪になりそうな負の部分を抑えるための人の繋がりを得る。そうやって、元来もっている性格のいい部分を活かせるようになり、社会に入っていくのでした。

これは自分にも当てはまるなと思いました。妻のため。子どものため。職場で仲良くしてくれる人のため。イラッとしたときに思い浮かべられる大切な顔があることで、私は社会の一員になれています。もし孤立してしまったら、私だってレールを踏み外すことは十分にあるだろうなと感じました。

病院と似ている

入院中にこの映画を見たのですが、服役と入院には、通じるところがあるなと思いました。好きなものが食べられないこととか、規則正しい生活を強いられるところとか。もちろん、病気の苦しさを抜きにすれば、入院の方が百倍楽だとは思いますが、去るときにふさわしい言葉が「もう帰ってくんじゃねえぞ」という共通点もあります。

で、何が言いたいかというと、病院にきてビックリしたことがあったんです。それは「早く退院したい患者」と「できるだけ長く入院したい患者」の2パターンがいることです。私は後者のような人がいることに驚きました。

退院したくない人を観察すると、ほぼ100%が身寄りのない高齢者でした。自宅に帰ったとて、迷惑を掛けてしまう。生活がままならない。それが不安だというのです。これって、この映画のテーマとする「社会復帰の難しさ」に似ているなと思いました。

一方、高齢の方でも、人の繋がりが持てている人は「早く退院したい」と口を揃えて言っていました。自由がほしいと。私もそうでありたいなと思います。年をとっても人の繋がりを絶やさないようにしたいものです。

まとめ

レールを外れた人間が社会に戻ることは難しい。けれども、人との繋がりが得られれば、不可能ではないという希望に満ちた映画(と私は感じました)。

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