前十字靭帯の手術日記その2.入院1日目

入院日記のパート2です(前回はこちら

入院1日目

受付のハリネズミさん

午前10:00。腰ほどもある大きなスーツケースを押した中年男が、街の大病院の受付に現れました。はい、私です。今日から入院します。緊張します。

受付の男に記入しておいた書類を提出。ちょっとした待ち時間。相手を観察してしまうのが癖です。書類を眺めている黒縁眼鏡の男。三十代後半くらいでしょうか。二センチほどに伸びた坊主頭に、白髪がまばらに混じっていて、ハリネズミのような可愛いらしさがあります。

「終わりましたので、◯棟◯階のナースステーションにこちらのファイルを渡してください」ハリネズミさんは言いました。「四人部屋です」

金髪の看護師さんと、黒髪ロングの新人さん

私はスーツケースをごろごろ転がしながら部屋に向かいます。いよいよか、と思うと、急に不安が押し寄せてきます。いじわる爺さんばっかりだったらどうしよう。帰れコールをされたらどうしよう。被害妄想癖が爆発します。

病棟にたどり着き、ナースステーションの小窓をのぞくと、金髪のお姉さんと目が合い、駆け寄ってきてくれました。おそらく二十代。若い看護師さんです。

「担当ナースの◯◯です。よろしくお願いしまっす!」

元気な挨拶。不安を押し流してくれるような明るさです。私の入院を担当してくれる方のようでした。金髪姉さんの隣には、もうひとり、若い看護師さんが居ました。黒髪ロングで、瞳の大きな女性。

黒髪の彼女は「新人なので付いて回らせていただきます」と頭を下げてくれました。4月に入院するとこういうこともあるのですね。「私も新人みたいなもんなのでよろしくお願いします」と返すと、黒髪の彼女は笑ってくれました。

これから三週間も過ごす場所なので、看護師のみなさまには「良識のある人間が来た」と思ってもらいたいものです。ふだんの五倍明るく振る舞い、人畜無害であることをアピールしました。

共用スペースの本棚

「ナースステーションの名簿に名前を書くと、シャワーが予約できますよ」金髪の看護師さんは何でも丁寧に教えてくれました。シャワーは一日一回、三十分でした。

案内されて病室に着きます。ところが、手違いがあったようで「すませんっ!まだ準備ができていないです」と謝られ、共用スペースで待つことになりました。恐縮する看護師さん。

「全然大丈夫です、Kindleがありますので、いくらでも待てます」と告げ、椅子に座りました。ここでも良い人アピールに余念のない私。

それにしても心地よい共用スペースでした。日差しが気持ちよく、気分が晴れます。日中はなるべく来るようにしよう、と心に決めました。

自販機を見ると、私の好きな「クラフトボスコーヒー」が売っていました。値段は170円。ずいぶん高いですね。でも、入院中にコーヒーを飲めるだけでありがたいものです。

共用スペースでは、『こだま』さんの「ここは、おしまいの地」というエッセイを読みながら待ちました。とてもおもしろいエッセイでした。偶然にも入院の話。「大部屋はくじ引きだ」と書いてあります。私くじ運悪いからなあ。不安に襲われます。

エッセイにはこんな金言も飛び出します。「首に埋め込まれたボルトが鳥居の形をしていて、体内にパワースポットを作ってもらったようだ」。すごい考え方。首の大手術という不幸にみまわれても、とらえ方ひとつ変えるだけで、幸せになれるものですね。ちょっとホッとした私。

共用スペースを見渡すと本棚がありました。30冊くらいの小説と、100冊くらいの漫画。過去の患者さんが残していった、野良の本棚のようでした。タイトルを眺めていると、宮部みゆきさんの「模倣犯」がありました。下巻だけ。誰が下だけ読むねん。

あっ。私は声をあげました。「ルビンの壺が割れた」というミステリー小説を見つけたからです。ずっと読んでみたいと思っていた本です。こんなところにあるなんて。

ついに病室へ

「病室の準備ができました」

金髪の看護師さんに呼ばれます。どきどきです。部屋に入ると、そこは空っぽのベッドが四つ並んでいました。(えっ、誰もいないじゃん)。いじわる爺さんどころか、先住民族がひとりも居なかったのです。くじ引きで言えば大吉です。

そこは四人部屋ではありますが、プライバシーを守るためのカーテンが、各ベッドについていました。これを閉めておけば、今後現れるはずの正面の患者さんと目があって気まずい思いをすることもないでしょう。ほっとします。

スーツケースを開き、中身を備え付けのロッカーに詰めました。10分ほどで作業を終え、ベッドに腰掛け、これから受ける手術のことをぼんやり考えました。

目の前には大きな窓があり、街並みが一望できました。開放感がすごい。私なんかに、いい席を用意してもらったものです。こういう小さな幸せに出会うだけでも、手術の不安がやわらぎます。

麻酔の説明

「失礼します」と女性の声がしました。カーテンをあけると、四十歳前後の白衣の女性が立っています。麻酔科副部長と名乗る彼女は、初めて全身麻酔を受ける私に、丁寧に説明してくれました。

麻酔担当の若い先生もいらっしゃいました。イケメンでした。週刊少年ジャンプで連載をしていそうな名前だなあと思ったのを記憶しています。

全身麻酔は点滴で注入される、と教えていただきました。十秒で眠りにつくとのこと。寝ている間は挿管されて人工呼吸器に繋がれるそうです。

「何か質問はありますか?」

そう聞かれると、何かひとこと言いたくなる私。「会社の後輩が全身麻酔を受けたとき、目覚めた瞬間に『今日は残業しなくていいですか?』と看護師さんに質問してしまい、恥ずかしい思いをしたそうです。私もそうなるのではないかとヒヤヒヤしています」と冗談を言うと、笑ってくれました。

初めての病院食

12:15。昼食をいただきました。白身魚のあんかけが絶妙な塩具合でおいしかったです。意外でした。病院食はもっと薄味かと思っていましたから。

もろもろの測定

12:40ごろ。血圧、尻圧、体温を測ってもらいました。尻圧(けつあつ、と言うのでしょうか)は、床ずれになるリスクをみるための測定とのことで、お尻の下にマシンを挟んで図っていただきました。血圧を測るときの看護師さんの手が氷みたいに冷たかったのが印象的でした。

ついでに、ふくらはぎと足首の太さも測ってもらいました。加圧ストッキングのサイズ調整をするためです。加圧ストッキングというのは、手術中に血栓をつくらないために装着するハイソックスのようなものだそうです。

主治医との対面

執刀をしてくださる主治医の先生が挨拶に来てくださいました。四十代くらいの精悍な顔つきをされた男の先生でした。これまで外来で担当していた先生とは別の先生なので、少し不安もあったのですが「前十字は得意です」と言い切ってくれて安心しました。

「ひざまわりの剃毛をした方がいい」と主治医が言いました。ひざ回り上下20センチを剃るらしいです。えっ、それってシマウマみたいになるってこと? いやん、恥ずかしい。

手術看護師さん、薬剤師さんとの挨拶

14:00ごろ。手術担当の看護師さん、薬剤師さんが挨拶にいらしてくれました。「アレルギーはないですか」「大きな病気はないですか」くどいくらい確認してもらえます。みなさん優しそうな方でした。

ブログ記事作成

15:20ごろ。入院までの経緯をブログに書きました。書いたらスッキリしました。ブログを書いた後は、本を読みました。こだまさんの「ここは、おしまいの地」の続きです。

病棟内の散歩

病棟を散策していると、こんな会話が聞こえてきました。

「先生すいません。◯◯さんのことで相談があるんです。ノンシュガーの飴を食べた言って買ってきてるんです。」看護師さんが主治医に相談している声でした。

「それカロリーは?」
「一個11キロカロリーです。」
「許可して大丈夫ですか?一日一個までにするから、って言っているんです。」
糖尿病の患者さんでしょうか。

「ほんとに一個で我慢するかねえ」
「してくれるとは思うんですけど」
「うーん」
「一日一個ならいいですかね」
「そうだねえ」
「守ってくれるといいんですけど」
はたして守られるのでしょうか。でも、雰囲気が分かりました。もし私が看護師さんに何かを相談したら、こんな風に医師に相談されるのですね。

16:30 お風呂の前を通ると、看護助手さんらしき人に声をかけられ、使い方を説明してくれました。「入浴中」に札をとって浴室にかけ、足拭きマットは使ったら捨て、最後に札を戻し、自分の名前を消す、というルールでした。

売店の下見

16:40 売店に行きました。手術をするとベッドから動けなくなるので、2リットルの水を大量に買っておかねばなりません。水が売店あるかを下見にいきました。

売店は病棟から少し離れた場所にありました。入り口から続くお菓子の山。クッキー。オニオンポテト。コンビニとはまた異なるバラエティ。甘いものだらけです。入院患者は甘味に飢えるのですね。

さあ、はたして水はあるでしょうか。ありました!うわっ高い!2リットルのペットボトルが250円もします。コンビニだったら100円で買えるのに。えっ!爽健美茶は2Lで368円!足元を見すぎじゃないでしょうか。外出禁止なので、まあ買いますけど。

入浴と夕食

17:00 シャワーを浴びました。レンタルの入院着を着たら、Lサイズなのに寸足らずでした。手足がでるのはまだ許せるのですが、半ケツになるのがつらいです。

18:20 夕食。肉団子が美味しかったです。けんちん汁みたいなのも美味でした。

新しい住人

19:00 四人部屋に新しい住人がやってきました。50代くらいの男性でした。えっ、こんな遅い時間に、どうして。気になってしまい、つい、看護師さんとの会話を盗み聞いてしまいます。

どうやら、その患者さん、もとの四人部屋を追い出されてきたらしいです。

というのも、その患者さんに繋がれている医療機器の調子が悪く、ピーピーと異常音を出すようになったとか。すぐに直りそうにないので、患者さんと看護師さんの間で話しあい「命にかかわる機械じゃないから、いったん止めましょう」と。それで一件落着と思いきや、横やりが入ります。

「医療器具を止めるなんてとんでもない」と同部屋のおじいちゃんが怒りだしたそうです。患者さんとしては「いやいや、他人が首つっこんでくるなよ」と思ったのですが、怒るじいさんは止まらない。でるわ、でるわの、看護師批判。もうどうしようもないということで、患者さんが部屋を移動せざるを得なくなったとのこと。

うわー。かわいそう。外れ部屋だったのですね。同情しかありません。でも良かったです。その怒るおじいちゃんの方がこっちにこなくて。

就寝

夜は、こだまさんの「ここは、おしまいの地」を読んで、感想を書いて過ごしました。だんだん眠くなってきて、21:30ごろに寝落ちしてしまいます。

6:00前に窓から差し込む朝日で目が覚めました。

まとめ

入院1日目は、手術スタッフさんが入れ替わりやってきて、説明を受けたり、病棟の中を散策していたりしたら、あっという間に終わってしまいました。とりあえず、当たり部屋になったみたいで、よかったです。

次回の日記はこちら

コメント

タイトルとURLをコピーしました