林真理子さん著「いいんだか悪いんだか」の感想

林真理子さんのエッセイ「いいんだか 悪いんだか」を読みました。

『林真理子』という四文字は、私にとって「雷門」のような存在です。雷門をくぐっていない人は「東京観光をした」と言ってはいけない感じがするように、林真理子をくぐっていない人は「エッセイが好きです」とは言ってはいけない気がしていました。

『さくらももこ』は渋谷スクランブル交差点。『よしもとばなな』はスカイツリー。『林真理子』は雷門。エッセイ界を東京でたとえると、巨匠たちの作品は一度は見るべきランドマークと言えましょう。そんな雷門をくぐったことがないのが、ずっと心に掛かっていたのです。

ましてや林真理子さんといえば、直木賞をとられた小説家でもあります。まさに文章のプロ。「ベスト・エッセイシリーズ」の常連。読んでみたいと思うのが普通です。なぜ読んでこなかったのかと責められると「雷門より原宿のクレープが気になったから」としか言いようがなく、最近話題の芸人エッセイばかりを読んできてしまいました。

本書は私にとっての「林真理子デビュー本」です。どうして今になって読んでみたのかと訊かれたら「クレープに飽きてきたから」「浅草の近くまできたから」「そりゃ雷門は見るっしょ」くらいの自然さで手にとっていました。

さて、初めての雷門はどうだったのか。感想を書きたいと思います。

この本の概要

林さんが週刊文春に連載した48編のエッセイをまとめた本。一言でいえば「おもしろいおばさんの雑談」。『行動力』という概念を具現化した精霊のようなおばさんが、すらすらと読みやすい文体で、イケメンに浮足立ち、ワイドショーにツッコみ、今度こそダイエットするぜと誓い、パソコン苦手だけどブログを頑張り、お芝居を見に行ったり、自分で演じてみたり、村上春樹さんにサインをもらいに行ったり、犬をプレゼントしたりするお話。

林真理子著「いいんだか悪いんだか」文芸春秋(2010年).

感想

共感できないのに読めてしまう

林さんは私よりも36歳年上の女性ということで、ジェネレーションギャップ、ジェンダーの違いが大きく、素直に「わかる~」という共感はできなかったのですが、この年代のおばちゃん(お節介パワー強め)が、どういう思考回路をしているのかが、よく分かって面白かったです。

逆に言えば、共感できない文章がすらすら入ってくるというのは、それだけ文章力が抜群という証拠だと思います。おそるべしでした。

「共感できないなあ」と思ったのは、上から目線になるエッセイがいくつか混ざっているところでした。政治家の言い間違いにツッコむ『ミゾユウの出来ごと』、「卒業」という言葉が含むえらそうな響きに引っかかる『卒業』、眠っていない自慢ともとれる『眠れない』、おつりをうけとらないポリシーを披露する『親切な客』などがそうです。まあ、すらすら読めちゃうんですけれども。

イケメンに浮足立つ話も多かった印象です。『私の主観』では、イケメンがあなたを気になっているらしい、という紹介にウキウキして、フットワークの軽さを見せつける林さんが垣間見えます。イケメンに心躍らされるおばさんって、おもしろいですね。精神的に若くていいなあと思いました。(林さんの小説を読んだことがないのですが、恋愛をする女の心の機微を描くのがうまい、という前評判を聞いたことがあります。読んでみたくなりました)。

憧れて行動する話が一番面白い

一方で、人から影響を受けて成長しようとしたり、憧れたりするようすが素直に書かれているお話も多くあり、そういったものにはとても共感ができ、読みごたえがあります。林さんのような社会的地位の高い方の「みずみずしい本音」が見えて、これぞエッセイの良さだと思えます。

『ハルキ・ムラカミ』は、林さんが村上春樹さんに偶然であう話です。「村上春樹はヤンバルクイナ」というたとえが秀逸です。直木賞作家からみても、村上さんは別格であり憧れ、というのが伝わってきます。憧れるあまりミーハーにサインをねだっちゃう林さん。小説のプロなのに。そういう可愛いらしさが素敵なお話でした。

『プロジェクト始動』『春たけなわ』『私のIT化』も心を打つお話でした。原稿はすべて手書きという、筋金入りのIT弱者の林さん。それでも「できるようにならなくちゃ」と思い立ち、ブログを初めてみたというエピソードです。苦手に取り組もうという姿勢がいいなあと思えますし、ちゃんと行動に移して、話が展開していくのを読むと、「自分も頑張らなくちゃ」と元気がもらえます。こういう話が好きです。

世話焼きさんは憎めない

ところどころ垣間見える上から目線に、うーん、首を捻りつつも、エッセイを読み終わったときに「いや、でも、この人、すごくいいひとなんだろうな」と思ってしまうのは、林さんが「お節介おばさん」だからでしょう。他人のためにパワーを使えるひとは憎めません。

『この病い』は、’’’若い時から予感はあった。それは「自分はものすごいお節介おばさんになるだろう」ということである(p.23)’’’という告白から始まり、若い男女をくっつけるのに獅子奮迅するお話です。仲人体質というのでしょうか。しんどい作業だと分かっていながら、良い人同士を紹介したくなるという「病い」におかされた林さん。いい人なんだろうな、というのが伝わってきます。

たとえば、紹介する女性の表現をひとつとっても、あたたかい気遣いが伝わってきます。’’’またこのお嬢さんが学歴といい、美貌といい、非のうちどころがない。果物屋さんに飾ってあるメロンのようなお嬢さんなのだ(p.26)”’では、紹介相手を高級メロンのように大切にする気持ちが感じられました。

それはやりすぎでしょ、と笑ってしまったのは『ペットショップ禁止』です。他人に生き物をプレゼントするのは、世話焼きにしても、行き過ぎですよね(相手が喜んでくれてよかったですね)。でも、他人にエネルギーをつかうという意味では、いいことだったのかもしれないですね。

まとめ

初めて林真理子さんのエッセイを読みました。パーソナルな部分が多分に書かれていて、林さんの人となりがよくわかる一冊でした。すごいお節介な方なのですね。おもしろかったです。林さんみたいに、たくさん憧れて、たくさん行動して、おもしろいエッセイを書く人になりたいなあ、と思いました。

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