辻村深月さん著「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。」の感想

辻村深月さんの「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。」を読みました。

直木賞作家である辻村深月さんのミステリー小説です。病院の本棚にたまたま置いてあった「ツナグ」という作品が震えるほどおもしろく、一気に辻村さんが大好きになり、別の小説も読んでみたいと思って手に取ったのが本作でした。

「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。」というタイトルが謎めいていて興味をそそりますよね。四桁の数字。いったい何の数字でしょうか。四桁ならば、市外局番、クレジットカードの暗証番号などが思いつきます。あえて0807と書かず、カタカナにして「、」と「。」を付けていることから、セリフっぽさも感じられます。

ということは、どうしても登場人物のだれかに「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。」と言わせたかったのでしょう。それは誰なのか。それを言わせて何を伝えたかったのか。そんなことをぼんやり考えながら、段々畑が描かれたのどかな表紙を開いたのでした。

あらすじ

ほとんど虐待に近い『しつけ』を受けて育ったがゆえに母娘関係が最悪なアラサー女子・神宮司みずほが、不気味なほど母娘関係が良好だった幼馴染・望月チエミの起こした不思議な『母親殺傷事件』に疑問を抱き、チエミと交わした『ある約束』と『赤ちゃんポストの話』を手掛かりに、行方不明となったチエミを捜索するお話。

辻村深月著「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。」講談社(2009年)

感想

人生の責任を親に押し付けていないか?

この作品は『赤ちゃんポスト』を題材にしていることから分かるように「親子関係」がキーワードです。読んでいてビシビシ感じられたのは、「きみは人生の責任を親に押し付けていないか?」という強いメッセージでした。これが本作の主題だと思います。

物語は、正反対な二人の「女の子」の親子関係を中心に描かれます。私が注目したのは、そのうちの一人。母親を殺害したチエミです。

チエミは同級生からみて「理想的な母娘」と言われるほど母親と仲が良く、「今日は合コンなの。こんな男の子がいて…」のような恋愛話まで出来てしまうほどベッタリな母娘です。

しかし、羨ましいことばかりではありません。

娘の会社にまで着いていってしまう過保護な母親のもとで育ったチエミは、なにごとも一人で自信を持って決められない「未熟な女の子」になりました。そんなズレたチエミが社会生活を送るのはつらいものがあります。怒られること、不快なことも多く、そのたびに母や後輩に愚痴る。でも過保護に育てられたので行動しません。

自立心の高い後輩から見れば、うじうじしたチエミの態度は腹が立つものでした。こんな風に思われていました。

自分の人生の責任を、人に求めて不満を口にして終わり。そんな生き方、楽じゃないですか。(p.239)

この言葉が、まるで自分に投げかけられたかのようで、心をえぐられる思いがしました。私だって、自分の人生に降りかかった不幸を「親のせい」だと思い込んで恨んだ経験があるからです。

中学の部活の後輩に、スラっとした恰好いい少年がいました。いわゆる「モテる」タイプの男の子でした。ひょうきんで、話もおもしろくて、持ち物のセンスもいい。私は恋愛に興味がないフリをして、その実、モテたくて仕方がない野郎だったので、後輩のことが羨ましかったのをよく覚えています。

ずるい、と思ったのは、彼の家に遊びにいったときのことでした。「いらっしゃい」と出迎えてくれた彼の父親が、完成されたイケオジだったのです。

180センチを超える身長。整えられたあごひげ。シンプルで清潔感のあるシャツ。ジャンレノを若くした感じといったらいいでしょうか。その父親は息子に輪をかけて明るく、快活で、おもしろい人でした。

この父親と一緒に住んでたら、そりゃ彼がモテ男に育つのも納得です。理解が深まると同時に、じゃあ私がモテないのは両親のせいだ、と恨む気持ちが芽生えました(逆恨みもいいところです)。

今年で私も33歳。愛する妻と、ラブリーな子どもが二人います。ようやく「モテ」に対する劣等感はどこかに消えてくれました。親には感謝しかありません。残っているのは「あのときは親のせいにして悪かったなあ」という罪悪感。本作は、そんな罪悪感をダイレクトに掘り起こしてくるものであり、心が痛みました。

親だって人間なのですから、欠点があって当たり前ですよね。私も親ですけどダメなところを数えた方が早いくらいです。短気だし。毛深いし。ギャグ寒いし。あれ、なんか辛くなってきた。

自分の欠点をすべて受け入れられているかと言われると、やっぱり80%くらいは誰かのせいにして逃げたい気持ちでいっぱいです。でも自分の人生の責任は、自分でとらないといけないですよね。親のせいにするのは楽だし、自分もしがちだったのですが、それは逃げですよね。

この作品のおもしろさ

「自分の人生の責任」について深く考えさせられた本作ですが、それはそれとして、謎解き的な要素でみても、十分に面白い作品だったと思います。冒頭からいろんな謎がちりばめられていて、ページをめくるたびに、パズルのピースが埋まっていく快感が得られました。

どうしてチエミは仲良かった母を殺してしまったのか。

どうしてみずほは疎遠にしていたチエミに執着するのか。

どうして赤ちゃんポストが唐突に出てきたのか。

タイトルの「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。」は誰がいつ言ったセリフか。その真意は何か。

チエミはどこに逃げているのか。どうして捕まらないのか。

大地とはだれか。彼がチエミに何をしたのか。

ああ、なるほどね、そうやって鞘に収まるのね、という納得感ある終わらせ方だったと思います。モヤモヤが残らなくてよかったです。

私は男性なので十分に共感できたかと言われると微妙ですが、20代を合コンにあけくれる田舎の女性たちの、表面的な友人関係や、めんどくさい部分がたくさん詰め込まれていた、というのも本作の特徴かと思います。女性が読むと「分かるわ~」となりそうな気がしました。

まとめ

親子関係について考えさせられるミステリー小説でした。自分がダメなのは親のせいだ、と思いたくなる気持ちも分かりますし、親のせいにして逃げちゃだめだよな、という指摘にも共感できました。最後は親の愛情を感じられる小説です。かなり女性っぽいテーマのお話でしたが、男性の私でも十分に楽しめました。

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