小原晩さん著「ここで唐揚げ弁当を食べないでください」の感想

小原晩さんのエッセイ集「ここで唐揚げ弁当を食べないでください」を読みました。

きっかけはYoutubeでした。お笑い芸人のダウ90000・蓮見さんが、本気で嫉妬したクリエイター、として挙げられていたのが、小原晩さん。コントの世界を文章で表現している、つきぬけておもしろい、と絶賛だったので、ぜひ読みたいと思いました。

勢いにまかせてキンドルで購入して読んだのが、小原晩さんの第二作目の方。「これが生活なのかしらん」です。小原さんの生活にひそむ「ほのおかしさ」を抽出して書かれた、ユーモアあふれるエッセイでした。人間のか弱さや不幸を笑いに変換するのがとても上手な作家さんという印象を受けました。

あまりにおもしろかったので、すぐにでも第一作目「ここで唐揚げ弁当を食べないでください」(タイトルが最高ですよね)を読みたくなった私。しかし、あいにくの売り切れ。歯噛みします。自費出版なんですかね? Amazonなどでは手に入りません。卸してある書店を探して、予約し、ようやく入手。抑圧された読書欲を開放するように一気読みしました。

概要

東京のはしっこで生まれ、ふらふらと23区内にやってきた1996年生まれの女性・小原晩(おばら ばん)さんが、美容師(?)として狩りにいそしみ、社会の理不尽を目の当たりにし、おいしいものを食べてほっこりし、深夜の公園でストレスを発散させ、建物のすき間で唐揚げ弁当を食べ、なぜかカレー屋さんを経営し、父と回転寿司をたべ、少年の尻に太陽を重ねる、全22編のエッセイ集。

小原晩著「ここで唐揚げ弁当を食べないでください」(2022年).

感想

恥ずかしさを慎ましくユーモアに描く

小原さんのエッセイは、人間の弱い部分、恥ずかしい部分を、するっと見せてきて、どうぞ笑ってやってください、と申し出てくるような、慎ましいユーモアにあふれています。

代表的なのは、『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』でしょうか。これは、おしゃれな街の建物と建物のすき間で、ファミマのから揚げ弁当をたべる人間が、せっかく見つけた安住の地を失うエピソードです。

たった2ページの短い文章の中に、著者の作風と人間性がギュッと詰まっています。いい作品だなと思いました。薄暗い路地にしゃがみこみ、こそこそと弁当を貪る女性の映像が、ありありと目に浮かんでくるようです。不思議と悲壮感はありません。著者の恥ずかしい気持ちが素直に伝わってきて、ニヤニヤしてしまいました。

後先を考えない

小原さんは後先を考えずに行動してしまうところがあります。後先を考えない人間はおもしろいものです。それは、誰かに助けてもらえるだろう、という確信犯的な無謀さなのですが、言い換えると、人の暖かな心を信じる純粋さを持っているとも言え、どうにも憎めず、仕方のない人だなあ、と笑ってしまいます。

『渋谷寮の初夏』は、ビビッドカラーな寮で貧乏暮らしをする体験談です。実質の手取りが五万五千円しかないのに、「手がすべった」という明らかな嘘をついて、散財をします。のこったわずかばかりの小銭さえ、つまらないアイスを買って消費する小原さん。後先を考えないとはこのことです。なにしてんねん、と笑えます。最後は、寮の先輩に助けてもらうという。読んでいるこちらの腹が減るオチでした。

不幸をかなしく描かない

文章に笑いを盛り込むのは難しい作業です。筆者のテンションが高いとサムくなりがちですし、安易な比喩はつまらないし、親父ギャグは現実の会話以上にスベるし、どうせえっちゅうねん、と私などは常々思います。構造的な矛盾や、練られた比喩、恥ずかしい事件を手札に揃えられれば御の字ですが、それば難しい場合、もっと手軽な笑いとして、妬み嫉みといった負の共感を使う、というアプローチがよく使われているかと思います。

たしかに妬み嫉みはおもしろいのですが、嫌な気持ちが読後に付きまとうことがあります。一方、小原さんの文章はおもしろいのに、嫌な気持ちがぜんぜんわかなくて、爽快です。ユーモアの温度感がちょうどいいのです。不幸をかなしく描かずに、純粋にギャグセンスで勝負しているのがすごいなあ、と感心します。

『回転ずしと四人家族』は、余命いくばくの父親と、回転寿司を食べにいくお話です。かつて誰よりも寿司を食べていた父の面影がなく、せつないエピソードになるはずなのですが、読んでみるとおもしろい。バランスよく食べようとする母のバランスを崩す父。こんなところにもおかしさを見出せてしまう小原さんのやさしい観察眼が羨ましいです。

小原さんの描く不幸はかなしくありません。どこまでもユーモラスで、真似したいなと思いました。

人生を甘く考えている

人生をなめているやつが痛い目をみるのはおもしろいものです。そういったおもしろさも小原さんは持ち合わせています。こんな人が身近に居たら、絶対ともだちになりたい。人間性が面白すぎます。面白い属性を備えすぎていると思います。面白役満人間です。

『パンとか焼いて生きていたい』は、パンとか焼いて生きていけたら楽しいだろうな、という、パン屋の苦労をかけらも想像していない、人生をなめた人間の発想がつまったエピソードです。パンをつくる技術がないからカレー屋になろうとする、よく分からない思考も大好きです。

おもしろい人物を描くのがうまい

小原さんは自身がおもしろ人間であるだけでなく、身近にいるおもしろい人物を描くのにも長けています。

『最後の夜と救急車』では、救急車を呼ぶ勇気はないのに他人に助けもとめることは一丁前にできる謎のソフトモヒカン男を描きます。こういうプチ事件を書かせると小原さんは面白いのです。

『若者』では美容院の同僚、『幡ヶ谷の三人暮らし』ではルームシェアした友人を描きます。この二つは、第二作目「これが生活なのかしらん」で詳しく書かれていたものです。ああ、あのひとたちか、と思い出しながら、味わい深く読めました。

まとめ

小原晩さんは、個人的にいちばんおもしろいと思っているエッセイストです。こんなに爽快感のあるユーモアは他では味わえません。期待通り、とってもおもしろいエッセイでした。次回作が待ち遠しいです。

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