黄色い棒を緑色の棒に変えた女

「すごくいい立哨だったよ」と母が言った。

娘の通う保育園では、半年に一度、立哨当番が回ってくる。黄色い旗を持って子どもを誘導するアレである。

私はひざの調子が悪い。「グヌゥッ!」とひざを抱えてうずくまるおじさんに黄色い旗を振られても、園児が不安になるだけだろうから、母に引き受けてもらった。自営業の母は時間に融通がきく。つい頼りにしてしまう。

「いい立哨って?」私は尋ねる。

「立哨してたらね、トラックが来たのよ」フライパンで炒め物をしながら母は言う。

「トラックの荷台にね、アスパラガスが山盛りになってたの。うわあ、おいしそう、食べたいと思ったの。ちょ、ちょっと、すみません、そのアスパラガス、売り物ですか、って声かけたよね」

トラックに乗っていたのは老齢の夫婦だったらしい。自宅で栽培したアスパラガスの卸売をしているそうだ。

見ず知らずのおばさんが、唐突に、黄色い旗を振り回しながら駆け寄ってきたのだから、さぞびっくりしたことだろう。

「どうしても食べたいんです!売ってくださいってお願いしたのよ」
「それでどうなったの」
「『自宅用かい?』って訊かれて、はい、って答えたら『じゃあ百円で』って。アスパラガスをむんずと掴んでくれようとしたの」
「へえ〜」
「でも、百円にしては多すぎるのよ。いやいやっ、二百円出させてください、って言ったわ。そしたら、おじいさん、またひと掴みのアスパラを足して、『じゃあ、これで二百円』って。だから、すごい量になっちゃったの」

こんなことがよくある。うちの母に「恥ずかしい」という概念がないことを知ったのは小学生のときだっただろうか。

人見知りをする私に「どうして恥ずかしいの?」と母は何度も訊いた。この人は本当に同じ遺伝子なのかと疑ったこともある。それくらい母の大胆な行動には、いつも驚かされる。

アスパラガス炒めは、とんでもなくうまかった。

軽くバターで炒めてあるが、生でもいけるのではないかと思うくらい、苦味やクセがなく、みずみずしい甘みだけが喉を通った。スーパーのアスパラとはまるで違った。恥ずかしくない母をもって得をした。

母の羞恥心のなさを、私はうらやましく思う。

母が自営業をはじめたとき、その職業は、当時まだ新しく、世間的に「恥ずかしい」とされる仕事の代表だった。

いや、仕事とすらみなされていなかった。「なにしてるんだろう」と思った。それがいまや、三万人を超える登録者を持つようになるのだから、恥ずかしがらずに行動するって大事なのだと痛感する。

私は母を誇りに思う。

コメント

タイトルとURLをコピーしました