三台目JSoulぶらさがりーず

「ぶら下がり健康器具を買ってみたんだけど、けっきょく使わなくなって捨てた」という方は少なくないと思う。わかる。一回やってみたくなるよね。

でも、三台も買ってしまったバカとなると、どうだろう。私くらいのものじゃないだろうか。

「二台買ったら、今ならもう一台ついてきます!」みたいな話だったらおもしろいのだけれど、残念。すごくつまんない理由なのだ。

計画性がなくて、一台買って、捨てて。また一台買って、捨てて。懲りずにまた一台買ってしまったというだけ。

どうしてこうなっちゃうんだろう。

一代目を購入したのは、社会人になって数年してからだった。

そうそう、新婚旅行がきっかけだ。南国のハネムーン。一生に一度だから、贅沢をしたあの旅。

トロピカルなジュース。生クリームたっぷりのパンケーキ。妻はこういったキラキラしたものに夢中になった。私はビーチに群がるムキムキしたマッチョに夢中になった。

だって、びっくりしたのだ。英語圏の成人男性が、みんな筋肉を装備していたのだ。自分が逆三角形でないことが、ひどく恥ずかしかった。

後日、アマゾンから届いたのが、わさびの親戚のような名前の懸垂器だった。黒くて重厚なソレは恐ろしいほど部屋を圧迫しけれど、アクセントの赤色が最高に格好よかった。

でも、妻が「この赤いのがダサいね」と言ったので「そうだよねー。この赤が惜しいんだよね。全部黒が良かったのにねー」と私は平気で嘘をついた。

子どもが生まれた。ハイハイをするようになった。キッチンに入っては危ないからと、ベビーゲートを設置した。棚にも鍵をつけた。

「これでよしっ!安全安全」とフンフン懸垂していたら、真下に子どもがやってきて、踏みつけそうになった。子どもの安全と懸垂を天秤にかけ、泣く泣く捨てることにした。

二代目を購入したのは、その一年後だったと思う。公園で懸垂をするのが億劫になった。やっぱり懸垂は自宅に限る。懸垂は一期一会だ。「いま」と思ったときに懸垂しなければ、そのやる気に再び出会えることはない。やる気の賞味期限は十秒で切れる。その十秒を掴みたかった。

とはいえ、置き場がない。どうするか。調べてみると、素晴らしい商品が見つかった。それは突っ張り棒タイプの懸垂バーだった。ドア枠のような硬いところに突っ張ると、八十キロまで耐えられるという。試しに購入。キッチンとリビングを隔てるドア枠に設置し、ぶっといネジを回して締めた。

ぶらさがった。「これは!」体重をあずけてもビクともしない。この日からまた懸垂し放題になった。キッチンに行く途中で、フンッ。リビングに戻る途中で、フンッ。移動経路に懸垂バーがある暮らしは、快適そのものだった。

一度だけ懸垂中に「ガコッ!」とバーが外れ、下のベビーゲートに腰を強打。プロレスで言うところのサバ折り状態になり、ぐはぁ、と呻いたこともあったが、おおむね満足のいく懸垂バーだった。

ある日、壁紙にひびが入っているのを妻が見つけた。犯人は懸垂バーだった。私の全体重を横方向に加え続けたことで、ドア枠が大陸プレートのように少しずつ動かされ、ついには壁紙が耐えきれず裂けたのだ。

「これ、やばいんじゃない」と心配する妻。いや、大丈夫、気のせいだ、と言い逃れしようとしたが、さすがに駄目っぽく、二代目の懸垂バーも泣く泣く手放した。

そして先日、三代目の懸垂台を購入した。

これまでの反省を活かし、赤のアクセントが無く、ちゃんと地面に設置するタイプで、子どもが入らない部屋に置き場を確保した。これで絶対に手放すことはない。完璧だ。三度目の正直だ。しかも窓に面している。裏の畑を一望できる絶景。たまにおじいさんと目が合うが、そんな些細なことは気にしない。

毎日、笑顔で懸垂をしている。

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