手遅れになる前に、ひげ脱毛を勧めたい

ひげを永久脱毛したことがある。

やってみて分かったけど、ひげ脱毛は絶対にした方がいいと思う。それもなるべく早めがいい。さもなければ人生の大きな楽しみを失う事態になる。

脅しているようで申し訳ないが、このくらい言わないと心に響かないだろうから、強めに言ってしまった。

人生の楽しみを損ねてしまった駄目人間からの忠告に、どうか耳を傾けてみてほしい。ひげ脱毛は、結婚前に済ませておくといいですよ!

偉そうに語りかけてしまったけれど、私もひげ脱毛に抵抗していた側の人間なので、一歩が出ない気持ちは分かる。

なにせ値段が高い。剛毛レベルにもよるが、ざっくり二十万円~三十万円くらいする。正直、高すぎると思う。

「毎朝のひげ剃りが無くなるのは楽だよ」という意見がある。分かる。でも二十万円は高すぎる。ひげ剃りはすでに生活の一部に溶け込んでいるので、無理して大金を払ってまで楽をする気にはならないだろう。

「青髭はカッコわるいよ」という主張もある。分かる。写真フォルダにならぶ自分がことごとく青髭なのはテンションが下がる。祖母に会うたび「あんたひげ剃りな」と言われるのはつらいものがある。直前に剃ってるんだけどなあ。

かといって、自分の美容のためにこんな大金を支払おうとは、やはり思えなかった。「ひげ脱毛行ってきていいんだよ」と優しい妻は言ってくれたが、でも二十万かあと思ってしまう。

美容を求めるなら、筋トレとか、ダイエットとか、服とか、肌ケアとか、そこまでお金をかけなくてもやりようがある。二十万円もする脱毛には手が伸びにくい。

それにネックになっているのは金額だけではない。痛いのが怖いのだ。現実そこまで困っていないのに、無理してまで痛い思いをしたくない。結局はそこだった。

実際どうだったかというと、めちゃくちゃ痛かった。

知人の紹介で、とあるクリニックに二年ほど通った。数か月おきにレーザーを照射して、ひげの毛根を焼き切る治療だった。やるならツルツルにしたいと思い、YAG(ヤグ)という最強のレーザーを希望した。それが悪かったのかもしれない。「ゴムパッチンくらいの痛みです」なんて嘘だ!と叫びたくなるくらい痛かった。

鼻の下なんてヤバかった。声が出た。涙がにじんだ。カラダが跳ね上がった。笑気麻酔のオプションを付けてこの痛みである。途中で怒って帰る人もいるらしいが、それも頷ける痛みだった。一回で心が折れた。「これは治療を続けるため」「頑張ったんだからご褒美くらいいいよね」言い訳しながら毎回千五百円くらいするハワイアンバーガーを食べた。さらに出費がかさんだ。

ひげ脱毛は高額な拷問だ。ふつうの神経ではできない。じゃあ、なぜ私がひげ脱毛をしたのかというと、それは「乳幼児に思いっきり頬ずりしたいから」だった。

「パパ、いやっ!」と当時二歳の息子が言った。頬ずりが痛いのだという。

私の頬ずりは、大根おろしに使う「おろし金」で皮膚を削りとるようなもの、と妻に言われてハッとした。そんな辛い思いを息子にさせてしまっていたのか。申し訳ない。高いとか、痛いとか、言っている場合じゃなかった。ひげ脱毛したい!と強烈に思った。

しかし、ひげ脱毛は時間がかかる。一気にツルツルにはできない。毛周期に合わせながら二年~三年かけて徐々に脱毛していくものである。だから「乳幼児期のふわふわほっぺと頬ずりしたい!」と思っても、生まれた後では手遅れなのだ。

どうしてもっと早く脱毛しなかったんだろう。もう、あの天使ほっぺにスリスリできないのか。自分が途方もない過ちを犯したことに気付いて震えた。子育ての醍醐味は「ほっぺスリスリ」にある。それを封じられるなど、絶望でしかなかった。

もう手遅れだとは思いつつ、ひげ脱毛に通った。二年ほどで、私のおろし金は、グレープフルーツの表面くらいの質感に変わった。

だが息子は成長してしまっていた。実の父親とはいえ、油ギッシュなおじさんのほっぺたが顔に付着するのは不快らしく、やんわりと断られるようになった。もうジョリジョリしないのに。いいじゃないか、少しくらい。

痛みに耐えた割にリターンが少なくていじけていたのだが、嬉しいことに、二人目を授かった。今は一歳の娘相手に、ほおずりの限りを尽くしている。

ほわほわである。もちもちである。ぷにゅぷにゅする。たまらん。たまらんぞ。二十万円? 安すぎるぞ! このほっぺを味わえるなら、お金などいくらでも出すわ!

こういうことがあったので、未婚~新婚の男性には、積極的にひげ脱毛を勧めている。奥さんが妊娠してからではもう遅い。手遅れになってほしくない。赤ちゃんほっぺ万歳!赤ちゃんほっぺ万歳!

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